第13話 マネーロード

僕たちは、3駅先の最上もがみ駅というところで降りた。


「す、すごい…」

ズラーっと「貴金属買取販売」「古銭高価買取」などの文字が並んだ店舗で街は覆い尽くされていた。


ここはマネーロードと呼ばれ、古銭だけではなく貴金属の取引を中心とした店舗がズラーっと何十件いや、100店舗以上、のきを連ねているのだという。


「こんなにいっぱいお店があると、どこで買い取ってもらったらいいのかわからないなぁ」

「そうね…」

僕たちはすぐに途方にくれてしまった。


ーああ、大学の授業で習ったことを思い出した。

人間は選択肢が多すぎるとどうなるのか。選べなくなるのだという。

選べなくなるとどうなろうのか。自信を失っていくのだという。


まさにそれが、今の自分の心境だ。でもそんなこともグダグダと言ってられない。

「とにかく、見積もりを3件ぐらいとろう。その中で一番高く買ってくれる店舗を選ぼう」


僕たちは、駅からすぐ手前の店舗、まん中の店舗、そして一番離れている店舗をピックアップして見積もりをとることにした。

しかし、これがまた困ったことを引き起こすことになってしまった。


どの店でも、お札を見た店主は「こ、これはどうした!!!」と絶叫するほどに歓喜していた。

意外だったのが、樋口一葉のほうが福沢諭吉よりもウケたことだ。

女性のお札はこれしかないから激レアなのらしい。今まで5,000円札を5,000円以上に考えたことがなかったので、この店主たちの反応に僕は驚いた。


結局彼らは、見積もりを断ってきた。

「他の店で見積もりをとれ。俺はその値段よりも高く買い取ってやる」というのだ。


「ああ、本当に困ったわね」

「見積もりどころか三つ巴みつどもえになっちゃったね」

「うまい!」

僕たちは、笑いあった。誰かと一緒に出かけることが僕の人生にまた起こるなんて考えもしなかった。そしてこんなに楽しいなんて…。


「シッ!」彼女が突然、笑っている僕を制止した。

「どうしたの?」

「なんか、もしかしたら…後ろをつけられているかもしれない」

「ええっ!」


ーなんでだ。僕たちは新しいIDカードを手に入れている。個人情報を垂れ流すようなものをスマホやペンで入力したりもしていない。


「しずくさん、気のせいじゃないのか?」

「わからない。もしかしたら気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


心臓がドッキンドッキンと体の芯から音を立て始めていた。

「ねえ、いまから走るわよ。私についてきて」


男の姿になっているしずくさんがダダッと走り始めた。僕は後をついた。

そして振り返ってみた。

後ろから、サングラスをかけた黒いスーツを着た男が追いかけてきている。

ーうわ、これはマジなやつだ。


僕たちはすぐに角を曲がった。すると今度はユニクロやZARAなどのファストファッションブランドの店舗が建っている。

「ここに逃げ込むわよ」そう言って、しずくさんはユニクロショップの中にすべりこんだ。


僕たちは、一目散に中央エスカレーターをかけあがっていった。

上から、黒いスーツを着た男が確認できた。


「あれ?」

「わぁ!」

男の数が、10人ぐらいに増えている。そして僕たちの姿を確認したようだ。

こちらに一目散に向かってくる。


「これは、本気でマズイ。どうしよう」

僕たちは、さらに上へ上へと走り続けた。最上階の8階につき、角に隠れた。


「どうしよう…」

ここから下っていくわけにもいかない。エレベータは中央しかない。

すれ違いざまにつかまってしまう。


その時、すぐ右に、緑に光るライトを確認した。

「非常階段!」

僕たちは、非常用扉を開け、非常階段を一気に駆け下りた。

そして、今度はゲームセンターの中に入った。


敵の姿はもうない。これは、うまく巻けたかもしれない。


「とりあえず、今日はもう帰ろう、ハァハァ」

しずくさんは、だいぶ息切れをしていた。僕も、もう歩けない。

まわりの人達は、ゲームに夢中で、僕たちの姿に気づいていない。


100年経ってもゲームセンターがあり、中にUFOキャッチャーがたくさんあることにも薄っすらと驚きを感じていた。普遍的に残るものもあるのだ。何でもかんでも21世紀のものが消えてしまうわけではないのだ。


では、なぜ鉛筆は消えてしまったのか。紙の本は消えてしまったのか。

僕は、そんなことを疲れた頭の中で考え始めていた。


まわりをキョロキョロ見渡し、黒いスーツの男たちがいないことを確認した。

そして、歩き出したその時、シュッと横からスプレーをかけられた。


「イタッ」どうやら催涙スプレーをかけられたようだ。

僕達はそのまま男たちに引っ張られ、毛布のようなものにくるまれた。

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