第690話京都での新年会兼披露宴(1)

毎年恒例の京都での一族の新年会は、今年は去年のマスターたちの披露宴に続き、久我道彦と田中亜美の披露宴も兼ねる。

大晦日、晃の一家も、それに出席するため、新幹線に乗り込んでいる。


その中で、特に出席するだけの父晃と母美智子は、のんびりしているだけ。

史は演奏をするので、楽譜を見ているけれど、由紀は、少し悩んでいる。

それは、昨日の晩、京都の従妹の加奈子から長電話があったため。


その加奈子は難しいことを言って来た。

「なあ、由紀ちゃん、愛華ちゃんが史君に告白するって、言っとるんや」


由紀は、頭を抱えた。

「そんなことを言ってもね、史はコンサートのレセプションで、里奈ちゃんを彼女って、全員に紹介しちゃったもの、今さら、どうにもならないって」

「史が、アホで頑固者ってわかっているでしょ?」


加奈子は、うなった。

「うーん・・・そう言われてもな、愛華ちゃんも頑固なんや」

「思い込んだら、絶対引かない」

「小さい頃、一緒に遊んだから、わかっとるやろ?」


由紀もうなった。

「そうだねえ、いろんなゲームをやっても、愛華ちゃんが勝つまで終わらなかったしねえ・・・トランプでも双六でも」


加奈子の声が沈んだ。

「それでな、愛華ちゃん、都内の音大を受験したんやけど・・・」

由紀も、何となく察した。

「連絡なかったからねえ・・・」

加奈子

「結局、合格しない以上、東京に住むことはできない」

「うちは、大旦那のお屋敷に住むけどな」

由紀

「それで、お正月の集まりが、一番近い告白のチャンスになるのか」

加奈子

「そうなんや、どないしよう」

由紀

「隔離政策は取れない・・・取れないよね・・・」

加奈子

「愛華ちゃんも、フルートの練習、メチャ張り切っていたもの」

由紀

「史に風邪引かせるぐらいしかないかなあ」

加奈子

「あのね、それが姉の言う言葉?できるわけないしょ?」

「みんな、史君のピアノ楽しみしているのに」

由紀

「うーん・・・」

加奈子

「どないしよう・・・」


結局、長電話になっただけで、全く結論は出なかった。


それを思いだして、また新幹線車内で史を見る。

由紀は思った。

「まあ、都内に愛華ちゃんが来ないだけでも、ホッとしたけれど」

「愛華ちゃんには悪いけれど、史みたいな子には、里奈ちゃんがいい」

「それにしてもねえ・・・何で、こう心配かけるんだろう」


その史は、車内販売のお姉さんから、珈琲を買っている。

由紀が、史をじっと見ると、史は何かを察したようだ。


「ほら!アイスでしょ!」

史は、アイスを買って、由紀に手渡して来た。


由紀は、それで、少しだけ機嫌をなおしている。

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