第689話コンサートの後のレセプション

カフェ・ルミエールビル三階のレセプションは、大盛況だった。

会場内の特大モニターには、コンサートの録画が流され、それを楽しみながら、料理を楽しみ、歓談を楽しむ。


史は、またたくさんの人に囲まれ、超人気者になっている。

そして今は、ルクレツィア女史とイタリア人たちが、囲んでいる。

ルクレツィア

「すごかったわねえ、今すぐにでもフィレンツェに連れて帰りたいくらい」

「バチカンのコンサートもいいかも、人気が出るよ、美男子だし」

史は、恥ずかしそうな顔。

「ちょっとほめ過ぎです、まだまだ英語もフランス語もイタリア語も、おぼつかない」

しかし、ルクレツィアは、そんなことでは引かない。

「何を遠慮しているの?先生を紹介しようか?」

「私が先生になろうかな、そうなると、デートできるしねえ」

そこまで言って大声で笑っている。


久我道彦のと田中亜美が、それぞれの両親を連れて、史の前に来た。

道彦

「史君、披露宴の時に、演奏を頼むよ」

「史君が演奏してくれると、本当にうれしい」

亜美

「お願いします、それまで風邪引かないでね」


道彦の父親は、幼い頃の史を知っている様子。

道彦の父

「あの可愛い赤ちゃんが、こんなにねえ・・・」

道彦の母

「晃さんの若い頃によく似ている、ほんと、お人形さんみたい」

亜美の父は、

「いい男の子だなあ、礼儀正しくて、亜美が褒めるのも、よくわかる」

亜美の母は、史を直接見て、途端に好きになったらしい。

「史君がデヴューしたら、ファンクラブに入りたいなあ、可愛いもの」


史は、ニコニコしている。

「はい、演奏させていただきます」

と言って、道彦の耳元で

「マスターも引っ張り出しましょう、歌とギターが上手ですから」

道彦もニッコリ。

「サプライズにしようよ、面白いから」

亜美もクスクス。

「私は、涼子さんに内緒で言っておきます」

「嫁仲間って言われましたので」


その他、音大関係者を含めて、史のまわりには、人が集まり続けた。


それを遠くで見ることしかできない由紀は、寂しくて仕方がない。

「何か、つまらない、史ばかり」

里奈は、由紀をなぐさめる。

「史君、後で疲れが出ますから、しっかりケアしましょう」

由紀も、それには納得。

「史は、ひ弱だから、きっとそうなる」


少々落胆気味の由紀の前に清が立った。

「由紀お嬢様、マスターを含めて、少し新年の集いの打ち合わせが」

由紀は、清の顔を見て、突然ニンマリ。

「はい!ただいま!」


由紀は、清とともに、別室に向かった。


里奈は、ホッとした。

そして、ためらわなかった。

そのまま史の前に進んだ。


大きな拍手が沸き起こった。

それは史が

「里奈ちゃんです、僕の彼女です」

「里奈ちゃんに支えられて、演奏を続けることができました」

と、周囲の人全員に紹介したため。


大きな拍手に包まれて、史と里奈は、しっかりと手を握りあっている。


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