第688話カフェ・ルミエール楽団冬のコンサート(10)

史のが指揮するアンコール二曲目「美しく青きドナウ」は、明るさ、華やかさを、さらに増し、フィナーレとなった。

史が楽団を立たせ、聴衆にお辞儀をすると、またしても地鳴りのような拍手とブラボーの嵐。


母美智子は、やっと胸をなでおろした。

「突然、指揮台にあがるから・・・何も聞いていなかった」

父晃は苦笑い。

「おそらくサプライズだと思うよ、榊原さんと楽団の」

大旦那は、ご機嫌。

「ピアノも上手だけれど、指揮もいいね、悩むなあ、うれしい悩み」

奥様は、聴衆からの歓声に包まれ続ける史を見て、

「私たちは、あの音楽家を育てる責任と、守る責任がある」

「とにかく、身体だけは、大事にさせないと」

と、真面目な顔。

大旦那も真面目な顔に戻った。

「ああ、一族をあげて、支える」

美智子が、頭を下げた。

「大学生になりましたら、よろしくお願いいたします」

美智子の言っている意味は、史が大学生になった時点で、大旦那のお屋敷の中の離れに住むこと。

晃が苦笑する。

「由紀には、言いづらくてね」

奥様も、困ったような顔。

「そうねえ、由紀ちゃん・・・大泣きになるよね」

「史君のことを叱るけれど、心配で心配で、可愛くて仕方がない」

「それが突然、別居なんてなるとねえ・・・」

「史君のためには、そうしたほうがいいんだけど」

大旦那は腕を組んだ。

「史も、芸術を極めるのであれば、独立したほうがいい」

「そういう時期が来たのさ」


さて、大人たちが、そんな話をしているけれど、史は演奏後、楽屋で楽団員たちに囲まれている。


「ブラームス、最高だった」

「いや、ワルツも楽しかった」

「次は何やる?指揮者でもいいなあ」

「でも、ピアノも聴きたいよね」

「室内楽のコンサートもやってみたい、史君はピアニストでね」

・・・・・

楽団員の方が、相当盛り上がるので、史はニコニコと聞いているだけの状態。


それを見ているしかない由紀は

「うーん・・・仕方ないけれど、私も史とお話したい」


里奈は、史の顔を見た。

史も里奈の顔で、意味を察したようだ。

楽団員に、レセプション行きを促している。


華蓮が、里奈に感心する。

「すごい、目と目で気持ちが通じる・・・」

奈津美はうらやましそう。

「また、負けた・・・って・・・ずっと負けてるかも」


美幸のスマホに、マスターからのメッセージ。

「準備完了、事務局と店員たちは、速攻でカフェ・ルミエールビルに戻ること」


カフェ・ルミエールの事務局と店員たちは、華蓮の車でカフェ・ルミエールビルに戻り、その他史と、楽団員、家族、招待者などのレセプション参加者などは大旦那が手配したバスにて、カフェ・ルミエールビルに向かうことになった。




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