第667話道彦と亜美の挙式に向けて(4)

マスターと清が、テーブルの上に配り出した食事は、立派な朱色の木箱に入った「弁当と椀物」だった。

マスターはニコッと笑って話しはじめる。

「本日は、両家のご対面、おめでとうございます」

「まずは、食事をしながら、ごゆっくりとご歓談なさってください」

「食事といたしましては、ご覧の通り、お弁当」

「ただし、私と清のコラボだから、和洋折衷になります」


大旦那もニコニコしている。

「開けるのが楽しみというか、ドキドキするなあ」

奥様も、ワクワク感があるらしい。

「マスターと清さんのコラボなんて、どうなるのかな」

亜美の父健一は、少々緊張している。

「かの有名シェフと京料理というか和食の最高峰クラスの技術を持った料理人の弁当なんて」

亜美の母雅子は、うれしくて仕方がない。

「なんか、幸せ・・・いい雰囲気」

・・・・・・・

さて、そんな状態で、ほぼ全員が同時に、弁当の箱を開けた。


道彦の父、孝彦が開けた瞬間、「ほおっ・・・」と驚きの声。

道彦の母、恭子の目がパッと輝いた。

「なんて、華やかなの?」


マスターが説明をはじめた。

「一段目には、柿の葉寿司と川海老艶煮、厚焼き玉子、ゆべし、スモークサーモン、無花果大和茶煮と一寸豆」

「二段目には胡麻豆腐と大和まなのお浸し、もずく酢と煮物三種」

「三段目には白身魚のポワレ、揚げ野菜」

「焼き物も用意しました」

「国産牛もも肉ロースト」

・・・・・様々な料理を説明するけれど、全員が食べるのに夢中で、途中から聞いていない。

とにかく、なごやかに食べ、なごやかに歓談している。


亜美は食べながら道彦に、

「美味しい、それ以外に表現しようがない」

道彦は、笑う。

「とにかく喜んでくれてよかった」

亜美は、父と母の顔を見た。

「あの二人は食いしん坊だから」

道彦

「二人とも、料理教室に通うんだよね」

亜美

「厳しく鍛えてもらおうかな、私も」

道彦

「どっちを習うの?マスター?清さん?」

亜美

「丁寧だけど、両方とも厳しいらしい」

道彦

「先生としては、そうなるんだろうね」

亜美

「披露宴が楽しみ」

道彦と亜美も、なごやかな雰囲気に胸をなでおろしている。


さて、マスターと清の料理は、両家の緊張を解くのに、しっかりと効果をもたらした。

そして、その後の打ち合わせも、順調に進むことになった。


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