第668話史の体調不良(1)

カフェ・ルミエール楽団の年末コンサートが近いけれど、史は恒例の風邪を引き、練習を休むことになった。

その史に対して、珍しく由紀がやさしい。

「どう?まだ辛い?」

「お粥作ったけれど、食べる?」

「まだ熱があるね、冷却シート張り変えてあげる」


史は、「後がこわい」と思うけれど、声も出なくなっているし、身体の節々がいたくて動かせないので、由紀に「されるがまま」の状態。


その由紀の「珍しいやさしさ」に、母美智子はうれしいような不安なような。

「由紀は、実は史が可愛くて仕方がない」

「でも、史が他の女の子から声をかけられたりすると、奪われるような気になって、嫉妬する」

「それが、史に文句ばかりいうようになった原因」

「いまは、独占できるからいいのかな」

「でもなあ・・・すぐに・・・」


美智子の不安は、実際、すぐに現実となった。

まず里奈がお見舞いにやってきた。

里奈は、「大丈夫?史君、クッキーを焼いたの、食べられるようになったら」と言って、ずっと史を見守る姿勢。

史は、「ありがとう、里奈ちゃん、心配させてごめん」

ゴホゴホとしながら、少し起き上がろうとするけれど、

里奈は史に

「だめ、無理しちゃ、私がずっと見てるから、寝てていいよ」


由紀は、ここで「オジャマ虫」を実感。

そして気落ちして自分の部屋に戻る。


その里奈が帰ると、仕事帰りのカフェ・ルミエールの女性陣がお見舞い。

「早く良くなって欲しいけれど無理しないでね」

奈津美は、木村和菓子店特製の生姜糖をお見舞いに。

「まだ顔が赤いね、辛そう、私はチョコレートを焼いたの、中には苺を入れた、回復したら食べて」

結衣は、史の額に手を置き、涙ぐむ。

「ねえ、回復したらパーティーしようね、史君が元気がないと、私も落ち込む」

結衣はお土産で、シュトーレン風のケーキ。


さて、洋子はまた違う。

「ねえ、史君、ネックウォーマーを編んだの、使って欲しいなあ」

なんといつの間にか、編み物をしていたようだ。

紺をベースにクリスマスの模様を編みこんだネックウォーマーを史の枕元に置いている。


史は、几帳面な性格なので、「起きなくてもいいよ」と言われても、身体を起こして、頭を下げる。

「みんな、ありがとうございます」

とまではいいけれど、やはり身体に力が入らない。

ドタっとまたベッドに横になる。


洋子たちが帰ると、由紀がそっと史の様子を探る。

「まったく・・・変なところで律儀」

「でも、今夜は無理か・・・そのままダウンだ」

結局、真っ赤な顔で寝ている史をチラっと見て、一階の母の所に。


母美智子

「まあ、お見舞いが多いこと」

由紀

「これで全部でしょ?」

美智子は首を横に振る。

「明日の午前中に、華蓮ちゃん、道彦君、亜美さんだって」

由紀

「マスターには?」

美智子の顔色が変わった。

「う・・・伝わるかな・・・」


由紀も、母の気持ちがわかった。

「大旦那と奥様まで?」


美智子と由紀は、頭を抱えている。





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