第666話道彦と亜美の挙式に向けて(3)

亜美の両親は、道彦と亜美、道彦の両親が玄関に出て出迎えた。

亜美の父が

「田中でございます」

と、深く頭を下げると、

道彦の両親が

「久我でございます」

と、同じように頭を下げる。

大旦那と奥様も、その後ろに立ち、深く頭を下げた。

亜美は、すこぶる緊張している。


道彦が、

「応接室にご案内します」と、全員に声をかけ、応接間に入った。


大旦那が、亜美の両親に頭を下げ、落ちついた口調で、話をはじめた。

「田中様、本日は、お忙しい中、我が屋敷までお越しいただき、誠にありがとうございます」

「さて、かねてより、内々にはお話をしていた件となりますが、まず、この道彦の両親について、紹介をいたします」

大旦那の言葉で、道彦の父の孝彦と母の恭子が再び、亜美の両親に頭を下げた。

大旦那

「この道彦は、道彦君の父にして、わが甥にあたります」

「もともとは、京都の久我家の出身なのですが、今は貿易会社で役についておりまして、パリに住居を定めております」

「そして孝彦の隣に座るのが、道彦君の母に恭子です、同じくパリに住んでおります」


大旦那から道彦の両親の紹介を受けて、亜美の両親も頭を下げる。

亜美の父

「亜美の父の田中健一と申します、本日は、少々緊張しております」

「それから、隣が私の妻雅子と申します」


大旦那は、再び、落ちついた口調で、話しはじめる。

「本日につきましては、お互いの顔合わせ」

「そして、これから、もう当人同士では決まった話なのですが、挙式についての、ご相談となります」


ずっと黙っていた奥様が口を開いた。

亜美と亜美の両親に頭を下げて、

「本当に亜美さんが、納得してくれて、私はどれほどうれしいことか」

「この道彦君も、ずっと日本に住んでいなかったので、浮世離れと申しましょうか、日本に一人戻ってきても、それが心配だったのです」

「そうしたら、こんな素晴らしい亜美さんが、道彦君を選んでくれるなんて」

大旦那の固めの話よりは、よほど胸を打つようだ。

少しずつ、道彦の母と亜美の母の顔から、緊張がほどけてきている。


亜美の父も、表情を緩めた。

「いや、こちらこそなんです」

「亜美も、一時は前の会社で本当に悩んでいて、それを道彦君に救ってもらって」

「それも、とんでもなく失礼なことをしたにも、関わらず」

この言葉で亜美は真っ赤。

道彦は、少し笑って亜美の手を握る。


亜美の母は、道彦と亜美をうれしそうに見る。

「私も、こんなに素敵な息子が出来るなんて、亜美を見直したんです」


・・・・・

少しずつ、なごやかに話が展開し始めたところで、応接室のドアが開いた。

そして入って来たのは、マスターと清。

ワゴンで、何かを持ってきたようだ。





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