第537話マスターの縁結び(6)

亜美は、少しずつ緊張がほぐれてきた。

何より、久我道彦の会話がスマートにして、興味をひく。

「へえ、文化講座の事務局ねえ・・・源氏物語、マスターの西洋料理教室、清って和食の達人の和食教室、食事の作法教室、あれ、着付けもある・・・」

「音楽もあるのか・・・イタリア歴史講座?フランス文学講座、面白いなあ」


そして思った。

「この久我君って、わが社には全くいないタイプ、目がキラキラして」

「わが社の男どもなんて、上司の顔をうかがって派閥を作るとか、出世に何が役立つとか、そんなのばかり」

「女の家柄で、二股かけるヤツもいたなあ・・・苦々しい」

亜美の顔が、そこで少し曇った。


ひとしきり、文化講座の話をしていた久我道彦は、その亜美に反応した。

「あの、亜美様、飲み物を追加しましょう」


亜美は、しかし、飲みたいと思うけれど、なかなか決まらない。

何しろ、目の前の久我道彦が、かなりイケメンで、雰囲気がいい。

簡単にビールなどと言うと恥ずかしいし、ワインだと銘柄があまりわからない。


少し亜美の様子を見ていた久我道彦が、クスッと笑った。

「亜美様、もしお差支えなかったら、私が選ばせていただきますけれど、甘くて飲みやすいお酒にします」


亜美は、ホッとした。

何しろ、きっと実家は名家、そのうえ海外生活が長い、下手な注文を出して呆れられるよりはマシと思ったのである。


少しして、美幸が持ってきたのは、たっぷりのホイップクリームを乗せた、アイスココアのリキュール。

それを、亜美と久我道彦の前に置く。


亜美は、一口飲んで、いきなりうれしくなった。

「わーーー!甘い!美味しい!お菓子みたい!」

「こんなお酒があったんだ」

とにかく、これで緊張顔は、全く消えた。


その亜美を見て久我道彦もうれしそう。

「こういうカクテル講座も、予定しております」

「洋風、和風、様々に」


少し間があった。


久我道彦は、やさしい笑顔。

「よろしかったら亜美様もご一緒に」


亜美の反応は即座だった。

「はい!是非!必ず!」



そんな二人の様子をカウンターから見ていた、美幸とマスター。


美幸は、面白そう。

「うーん・・・まとまるかなあ・・・いい雰囲気にはなってきました」


マスターは、少し焦れている。

「さっさと、握手ぐらいしないとなあ・・・あれで道彦もあがり症だ」


美幸の目が輝いた。

「でも、大丈夫、亜美様が握ってしまいました」


マスターはため息。

「はぁ・・・このままいくと、道彦は尻にひかれるタイプだ」


美幸は、クスリ。

「それはマスターも同じ、涼子さんには・・・」


マスターは、かなりバツが悪そうな顔になっている。







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