第536話マスターの縁結び(5)
「穴があったら入りたい」亜美であったけれど、それでも目の前に座る「久我道彦」をチラチラと見る。
そして、ゾクゾクする。
「あらら・・・あの時は、気持ちが動転していて、しっかり見なかったけれど・・・」
「マジでイケメン、スッキリ系のお顔、色白でお肌もきめ細やか、どことなく品がある」
「・・・でも・・・私より、年下って感じ・・・」
「すっごい、ドキドキしてきた」
その久我道彦は、少し顔を赤らめ、亜美の顔をじっと見ている。
そして、ようやく話しかけてきた。
「私は、あやしい者ではありません」
名刺を差し出しながら
「久我道彦と申します、今後、このカフェ・ルミエールのビルで、様々な文化講座を行うことになるので、その事務局員として、とある財団から出向しています」
と、静かで落ち着いた口調である。
亜美も、久我道彦に名刺を見せ
「田中亜美と申します、本当に先日は恥ずかしく、失礼な振る舞いをして、申し訳ありません」
「会社としては、物産関係のOLをしております」
亜美の声は少し震えている。
久我道彦は、頭を下げて亜美の名刺をしっかりと見る。
そして、にっこり。
「そうだったんですか、ここの物産の・・・何度も伺ったことがあります」
「会長様は御元気でしょうか」
亜美は、その言葉に目を丸くする。
「あの・・・本当に・・・久我様、私共の会社に?」
「それに会長まで・・・どうしてお知りに?」
久我道彦は、またにっこり。
「はい、私が属する財団の理事長と、会長とは懇意で、私は理事長のお供で何度も・・・というか会社には文化事業の打ち合わせで・・・実はそれ以前は、子供の頃から、存じ上げています」
亜美は、その言葉で身体が震えてしまった。
そして、久我道彦の名刺をしっかりと見た。
「・・・すっごい・・・あの・・・大貴族の・・・財団・・・」
「・・・って、この道彦さんは・・・すごい人?」
久我道彦は、少し自己紹介を補足した。
「はい、子供の頃って、それは5歳までです、そして財団の社員としては、ここ2年くらい、大学を卒業してからです」
亜美が少し首を傾げていると、久我道彦はまた説明を補足する。
「はい、5歳のころから、両親の仕事の関係で、ニューヨーク、ミラノ、大学はパリだったんです」
「それで、日本に帰って来たのは、2年前、ああ、両親はまだパリです」
亜美は、また目を丸くした。
「いったい・・・この人って・・・」
なかなか、次の言葉が出せない状態になった。
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