第531話史の室内楽(5)
ブラームスのヴァイオリンソナタ「雨の歌」の次は、ヴィオラの由梨とチェロの夏美が加わった、モーツァルトのピアノ四重奏。
史も、少し落ち着いたのか、すんなりと曲に入る。
まず、学長がうれしそうな顔。
「しっかり溶け込んでいるね、その上キラっと光る音がいい」
榊原も、聴き入っている。
「モーツァルトらしいモーツァルトだね、ハツラツとしていて、心が元気になる」
内田は、少し考えて、学長の顔を見る。
「ねえ、学長、全く問題がないっていうか、このままでも本番の演奏としても使えます、誰に聴かせても恥ずかしくない」
学長も、それは実感したようだ。
「そうなると、適度に指導はするとして、なるべくこのまま活かして、実際に本番でやらしてみたいね」
榊原は演奏が進むにつれて、舌を巻いている。
「何というか、適応性がすごい、もともと音楽の心を知っていると思ったけれど、技術も高いし、すごい演奏家になる、人気もでる」
内田は、榊原の感想に反応した。
「音楽史とか音楽理論でもいいけれど、できれば演奏家一本がいいと思うんだけどねえ・・・余計な時間を使わせたくない」
さて、教師陣三人の高評価の中、モーツァルトのピアノ四重奏曲が終わった。
まず、真衣が、うれしくてしかたがない。
「史君、ありがとう、問題ないって!私、ノリノリだったもの」
夏美は、史の肩をポンと叩く。
「廊下で少し暗い顔だったから心配したけれど、史君って、そういうレベルの演奏家じゃないって、初見でこれだけ出来るんだから」
由梨は、夏美を押しのけて、史の手を握る。
「もうね、何時間でも、史君の伴奏だったら弾いていられる、ねえ、今度個人的にどう?」
・・・・・・
とにかく、女子音大生三人は、大騒ぎなので省略。
学長は、少し呆れ顔。
「誰かが言っていたけれど、女難の相があるのかもしれない」
榊原は苦笑する。
「史君を取り合って、バトルが発生するかもしれない」
内田も、少々困っている。
「史君には、里奈ちゃんって可愛い彼女がいるって聞いたよ」
「変なトラブルになると、史君は悩むタイプだからなあ・・・」
さて、そんな状態で、史の室内楽練習は終わった。
練習時間が午前中だったこともあり、学長のおごりで、昼食を一緒にということになった。
尚、その場所は、さすが音大の学長、恵比寿のロブションだった。
その美味に全員が、喜んだのは、言うまでもない事である。
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