第532話マスターの縁結び(1)

午後10時、カフェ・ルミエールのドアが開いた。

入って来たのは、26歳のOLの亜美。

いつもは、会社の同僚と来て、明るい感じなのだけれど、今日は一見して、暗い雰囲気、やつれている感じ。


「亜美様、いらっしゃいませ」

美幸が挨拶をしても、その顔を少し動かすだけ。

カウンターの前の席に、よろけるようにして座った。


少しして、マスターが声をかけた。

「ご注文はございますでしょうか」


亜美は、ようやくメニュー表を見る。

「とにかく、あまり強くなくて、飲みやすいお酒あるでしょうか」


マスターは、少し考えた。

「はい、ございますが・・・」

そして亜美の顔をじっと見る。


亜美も、マスターの視線を感じた。

途端に、ウルウル状態になっている。


マスターがゆっくりと、

「何かあったのかな・・・亜美ちゃん」

「言える範囲でいいよ、聴くよ、飲むのはそれからでもいい」


亜美は、そのマスターに、ますますウルウル。

結局、涙声で話し始めた。


「私も26歳になって、なかなか相手も見つからなくて」

「同僚の女の子は、どんどん良縁を見つけて、玉の腰みたいにしていなくなって」

「この年になって、同期で残っているのは、私とあと二人ぐらいで」

「でも、その二人にも、めぼしい人がいるみたいで・・・」

「なんかね・・・私って、そんなに魅力がない女なのかなって・・・」

「親からも、一流企業に入って相手も見つけられないのかって、いつも嫌みを言われていて」

「でも、誰からも声が掛けられないし・・・会社にも行きたくないし、もう辛くて・・・」

亜美の涙は、なかなか止まらない。

そこまで言って、言葉も出なくなってしまった。


美幸が、亜美に声をかけた。

「そんなことないですよ、亜美さん」

「亜美さんは、とても、おきれいで、おやさしいし、明るい雰囲気で、魅力はあります、そこまで落ち込むこともありませんよ」


しかし、亜美は、そんな美幸の言葉には首を横に振る。

「そう言っていただけるのはありがたいけれど、事実が、そうじゃないんです」

「結局、私は魅力がない女なんです、誰からも声がかけられないんだから」

亜美は、またそれで、沈み込んでしまった。


その亜美をじっと見ていたマスターが、ポツリ。

「亜美ちゃん、ここは結婚紹介所じゃあないけどさ」

「少し、俺に時間をくれないか」


亜美も、美幸も、これは思いがけない言葉だったようだ。

亜美は、キョトンとした顔。

「え?マスター?単なる愚痴だったのに・・・」

「大丈夫、泣けばおさまると・・・」


美幸は、首を傾げていたけれど、マスターの表情を読んだ。

そして、亜美に耳打ち。

「大丈夫です、マスターのことです、とんでもない良縁があるかなあ」


ますます目を丸くする亜美の前に、

マスター

「はい、珈琲リキュールにミルク、カルーアミルクって言われているけれど」

ポンと置いてしまう。


亜美は、不思議顔のまま、珈琲リキュールをゴクリ。

「わ!甘い!美味しい!」


さて、マスターは何か考えがあるようだ。










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