第529話史の室内楽(3)
史は、それでも冷静だった。
女子大生の先輩三人に囲まれても、表情を変えない。
「ありがとうございます、わざわざお迎えまで」
と、キチンと頭を下げる。
そんな史が面白いのか、女子大生3人は、一緒に歩きながら、ますます興奮状態。
真衣
「今日はブラームスのヴァイオリンソナタの雨の歌だから、私とずっとだね」
由梨も負けない。
「こら!真衣!それだけじゃないでしょ!モーツァルトもやるでしょ!」
夏美も、真衣の言葉が気に入らない様子。
「ついでにシューベルトやろうよ、史君、アルペジョーネならすぐに出来る」
・・・・・・
そんな話が続いて、史は少しヘキエキ状態。
「あの、まだ楽譜を何も見ていないので、できるかどうかわかりませんし」
「そのほうが不安なんです」
やはり本音を言うしかない。
しかし、女子大生3人は史の不安など、全く気にしない。
真衣
「大丈夫、何とかなるって!」
由梨
「ミスっても練習だから何度でもやり直せるしさ」
夏美
「史君となら、ずっと練習したいから、心配ないって」
それでも、4人で廊下を歩いていくと、練習場所となるレッスン室が見えてきた。
そして、史は、そのレッスン室の前に立っている3人の「大人」を確認する。
「あ・・・内田先生・・・榊原先生・・・学長まで・・・」
「けっこう、ヤバイかも」
史の気持ちとしては、何より「初見」での演奏を聴かれることが、すごく不安。
「下手に弾くと、推薦取り消しになったりして・・・」
「父さんも母さんも嘆くかなあ」
「姉貴が怒るだろうし・・・」
「マスターとか、洋子さんとか、大旦那にも、恥をかかせるのかなあ」
「里奈ちゃんにも、呆れられるかも」
史は、少しずつマイナーな気持になっている。
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