第528話史の室内楽(2)
史は、一人で音楽大学に出向いた。
実は姉の由紀が、「危ないからついていく」って言って来たけれど、母美智子が「いつまでも、そんなことを言っていられない」と、押しとどめたのである。
史としては、「姉貴が一緒だとアレコレ、混乱になる」と思っているので、一人のほうが気楽な様子。
そして、真衣と打ち合わせた時間より、少し早く音大のキャンパスに入った。
史は、ゆっくりとキャンパスを見る。
「あちこちで楽器持って歩いている」
「みんなプロ志望かなあ、上手なんだろうね」
そして、自分について考える。
「今までは良かったけれど、それは高校生レベルとか、そういう話なんだと思う」
「それがお金を取って、聴かせるプロになるには、練習しないとなあ」
「その意味で、父さんの言っていることは正解だ」
「真面目に、ピアノも弾かないといけない」
「音楽史だけでなくて、ピアノもプロとして弾くこともあるんだろうから」
その真面目に考えている史の目に、連絡をしてきた真衣が写った。
真衣は、どうやら校舎から出てきた様子。
その真衣は、いきなり大きな声。
「史くーーーん!おっはよう!」
史が、周囲を気にするほどの大声。
こうなると、真衣の出てきた方向に急がなくてはならないと思った。
史も珍しく、大きな声を出した。
「はい!お待たせしてごめんなさい!」
事実としては、予定の時間よりも15分も前になるけれど、この状況では仕方がないと思った。
真衣も史に近付いてきた。
どうやら、史をお迎えする気持ちなのかもしれない。
ただ、史が少し驚いたのは、真衣の後ろから、他の女子大生らしき人も、二人いること。
二人とも、弦楽器のケースを抱えている、おそらく一人はヴィオラ、もう一人はチェロであることは、すぐにわかった。
史は、思った。
「真衣さんの後ろにいるってことは、この人たちと一緒に演奏するのかなあ」
「それにしても初見の演奏だし、ヘマしそうだし」
「ヘマしたら恥ずかしいなあ、知らない曲だと・・・」
少々の不安を感じたけれど、とても、そんな状態は続かなかった。
史が真衣たちの目の前に立った瞬間から、大騒ぎになってしまったのである。
真衣
「この子が史君だよ!可愛いでしょう!」
ヴィオラのケースを抱えた女子大生からも声がかかった。
「うん、可愛い!この子が噂の史君?私は由梨っていうの、よろしくね」
由梨は、いきなり手を差し出してくる。
おそらく握手と思ったので、史はオズオズと手を握る。
チェロのケースを抱えた女子大生も由梨には負けていない。
「こらーーー!由梨!先に手を握らない、あ!私は夏美って言うの」
夏美は由梨の手を振りほどき、史の手をそのまま握ってしまう。
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