第527話史の室内楽(1)
史と父の晃宛に、音大理事会名で、封書が送られてきた。
内容としては「史君を特待生として理事会にて、入学認可決定したことと、時間の余裕がある限り音大に練習に出向いて欲しい」ということ。
史は、ホッとしたような複雑なような顔。
「なんか、すごいなあ、遊びで行くなら気楽だけど」
「ピアノを弾くのが怖くなってきた」
父の晃は、
「まだまだ、それほど練習もしていないんだから、そこまで神経を使うことはないよ、自分を信じて、練習には行きなさい、史の将来にも関係するんだから」
と、史の背中をポンと叩く。
姉の由紀も実は複雑。
「この史が個性の強い音大生に囲まれてやっていけるのかなあ」
「また変な女難に巻き込まれると面倒」
「音大には里奈ちゃんもいないし、私もいない、ああ、不安・・・」
母の美智子も、同じように不安。
「一族でバックアップって言ってくれているのはありがたいけれど、史は悩んでしまうタイプだし、時々トラブルを巻き込むし」
家族も含めて実は不安な状態であったけれど、さっそく史には「お呼び出し」があった。
相手は、かつて会った女子音大生の真衣。
「内田先生と榊原先生にも確認したよ、音大特待生決定おめでとう!」
「私の仲間も、大喜び」
「それでね、史君、土曜日あいていたら、一緒に室内楽やろうよ」
「楽譜は用意しておく、モーツァルトとブラームスにする」
史も、断りづらかった。
「わかりました、楽しみです、よろしくお願いします」
何しろ、これから本当の先輩たちになる。
お世話になると思うと、これは出向くしかない。
それでも、考えることはある。
「モーツァルトとブラームスか・・・」
「かなり音楽性も違うなあ」
「それを室内楽か・・・自分のソロじゃないから、相手にも合わせなければならないな」
「そういえば、ピアノソロも指揮も、自分の個性でできるけれど」
ただ、演奏をする前というか、楽譜も室内楽の相手も見ていない状態で、何もできないことも事実。
史は、結局
「まあいいや、出たとこ勝負、その時に考えればいい」
と思った。
その真衣からのメールがもう一度あった。
「内田先生と榊原先生と学長も聞きたいみたい」
史は、頭を抱えてしまった。
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