第474話三年生になった史と里奈のデート(8)

史に声をかけてきた少々年輩の女性店員は、本当にうれしそうな顔。

そして、「あらーー・・・懐かしい」と、史と里奈の前まで歩いてきた。

ネームプレートには「菊田」と書いてある。


史は、少しキョトンとしていたけれど、途中からわかったらしい。

「あ・・・もしかして・・・菊田さん?昔・・・祖母様と一緒の時に」

と、立ち上がってキチンとお辞儀をする。


そんな史を見て、菊田とネームプレートをつけた女性店員は、ますますうれしそう。

「そうねえ、昔、お祖母様といらしてくれたわねえ、お祖母様とは、お花の関係でいろいろ教えていただいております」


史は、里奈に目で合図。

里奈も立ち上がると、史は里奈に少し説明。

「里奈ちゃん、菊田さんって言って、子供の頃から親しくしていただいているの」

里奈も、事情を察していたらしい、キチンと頭を下げる。


菊田店員は、そんな里奈にも、目を細めた。

そして、史に

「ねえ、あの可愛らしかった史君が大きくなって、今では、こんな素敵な彼女を連れて、ここのお店に寄ってくれるなんて、うれしいなんて言葉を越えて、幸せです」

「私はねえ、さっきから史君がナボナを食べる姿を見ていて、ピンときてね」

「少し不安だったけれど、声をかけてみたの」


史もうれしそうな顔。

「菊田さんも、本当にお元気そうで良かったです、祖母には僕から伝えておきます」

「ナボナも、本当に美味しかったです」


里奈は、そんな史を見て、またうれしくなった。

「史君が笑うと、みんな幸せになるのかな」

そして

「沈んでいると不安になるけれど、今日はここでデートが正解だったなあ」

と思っていると、菊田店員が里奈を手招きする。


里奈が「え?」と思って菊田店員のところに行くと

「里奈ちゃんって言うのかしら、少しお願いがあるの」

と、やさしい笑顔。


里奈が「はい」と頷くと

菊田店員

「あのね、ここのお店のバームクーヘンを」

と二箱手渡してきた。


里奈は、話が飲み込めない。

菊田店員は、そんな里奈の耳元で

「あのね、ここのバームクーヘンは史君と史君のお祖母さんの大好物」

「一つは里奈ちゃんのお家に、もう一つは史君に」

と、ささやく。


「え?」

となった里奈に、菊田店員。

「絶対史君を大事にしてね、それも私からのお願い」


里奈の顔は、本当に赤くなっている。



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