第380話音大訪問(4)竜の実態と史の将来

真衣は話を続けた。

「とにかく我がまま、派手好き、ゴーマン、演奏もそうなんだけど」

「なるべく彼の目に入らないほうがいいかなあ」

「時々、メチャクチャしつこいことがあってね、一度目についたとか気に入らない相手が出来ると、ずーっとイジメに入る」


由紀が真衣に質問をした。

「でも、そんなことばかりするんだったら、誰かが文句を言うとか」

「大学の方で注意するとかはないの?」


その質問に真衣が答えた。

「ああ、さっきも言ったんだけど、彼は大財閥の御曹司」

「長男とか跡取りではないから、気楽は気楽」

「それより何より、その大財閥お抱えのコンサートとか、音楽業界の仕事とか就職先含めて、ここの音大生がかなり仕事をもらっているの」

「それでね、他の生徒も大学も、強いことを彼には言えなくなっているの」

真衣の顔が暗くなっている。


ただ、史は、そういう話にはあまり関心がないらしい。

「でもさ、僕は演奏家希望ではないし」

「演奏はちょっとだけで、志望としては音楽史とか音楽理論なんだ」

「だからコンサートに出ることもなく、商売としての音楽業界に入るわけじゃない」

「だから、将来において彼とは接点は必要がない」


由紀も史の考えには同意した。

「まあ、彼と彼のバックの大財閥とやらから、仕事をもらうとか頭を下げるとかはなさそうだから、それはいいけれど」

それでも由紀の顔は晴れない。

「全く気に入らないなあ、そういう大財閥の力をバックにやりたい放題って」

「絶対にギャフンと言わせたいなあ」


ただ、史と由紀の考えを聞いた真衣は、少し首を傾げた。

「ねえ、史君、竜の話はとにかくね、演奏家を目指さないの?」

「それってマジ?」

「カフェ・ルミエールのコンサートも二回いったけれど」

「史君がすごく光っていたしね」

「史君の演奏を聴きたいと思う人が多いと思うよ」

「すごく、もったいないと思うけれど」


史は

「うーん・・・そう言われても」

と黙ってしまった。


由紀は

「そういう気持はありがたいけれど・・・」

と、なかなか返事ができない。


史と由紀、真衣の歩く先に、レッスン室が見えてきた。

榊原先生と内田先生が、立って手招きをしている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る