第379話音大訪問(3)革ジャンリーゼント男の暴言

史と由紀は、少々警戒しながら、音大の校舎の中に入った。

とにかく、自分たちを睨んでくる革ジャンリーゼント男には、目を合わせないように神経を使ったのである。


しかし、その神経を使ったのは効果がなかった。

まず先に、その革ジャンリーゼント男から声がかかったのである。


少し高めの声で

「おいおい!何だ?お前ら!」

「子供が来るところじゃないんだよ!」

「近所の公園とか児童遊園じゃないんだ、ここは!」

「何しに来た!そんな貧乏たらしい身なりで!」

「誰かの紹介?」

「そんなのないだろ?お前らみたいな貧乏人には!」

「いいから、さっさと帰れ!」

「目障りだ!」

とにかく、一方的に怒鳴ってくる。


史と由紀は、ますますムッとした顔。

史は怒り口調。

「いや、こちらの大学の榊原先生と内田先生のお招きで、伺ったのですが」

「それに、そもそも、あなたは誰ですか?」

「急にそんなことを言われても困ります」


由紀も怒った。

「そもそも、あのバイクの乗り方は何?」

「避けなかったら事故だよ」

「それに、私たちも、ここの大学の先生に招待されて来たの」

「それを勝手に何も聞かないで、ただただ文句ばかり言ってくる!」

「何様のつもりなの?」


しかし、その革ジャンリーゼント男は、一歩も引かない。

「なんだって?あの榊原と内田?」

「は!ロートルじゃねえか!」

「かつての名演奏家って言ってもな、今は時代の遺物だ」

革ジャンリーゼント男が、そんなことを言うと、おそらくその男の知り合いらしい。

少し派手目な服装に化粧も厚めの女子大生が近寄ってきた。


そして、史と由紀をジロリと見て

「ねえ、竜君・・・ほっといたら?」

「こんな貧乏人みたいな子供たちに関わってどうするの?」

「いいからテキトーに授業はサボって、ヒルズに行こうよ」


その女子大生に竜君と呼ばれた革ジャンリーゼント男は、そこでニヤッと笑う。

「ああ、お前の言うとおりだな、俺もな、あまりにも貧乏たらしいガキが二人校門の前を、ヨタヨタ歩いているから、ちょっと気合を入れてやったのさ」

「そしたら、あのガキ娘が文句言ってきやがった」

「でも、いいや、どうせ榊原と内田の関係だろ?」

「子供音楽教室レヴェルだな」

そこまで、話すると、竜も史と由紀には関心がなくなったらしい。

クルリと踵を返して、その女子大生と歩いていってしまった。


取り残された史と由紀は、ますますムッとしている。

「失礼な・・・貧乏たらしいとか、子供音楽教室とか・・・」

由紀

「榊原先生と内田先生まで呼び捨てにして・・・何様のつもり?」


そんなことを思って、史と由紀が歩きだすと、後ろから史の肩をたたいた人がいる。


史が「え?」と振り向くと、また違う女子大生が立っている。


その女子大生は、驚く史に

「ねえ、史君でしょ?内田先生のレッスンで見かけたよ、私も見ていたから」

「それからカフェ・ルミエールのコンサートにも二回ほど、素晴らしい演奏でした」

「ああ、私は一年生の真衣、覚えておいてね」

と、まず自己紹介。

そして

「あの竜って男子学生で三年生、かなり乱暴でゴーマンな性格」

「演奏もそうなんだけど、とにかく実家が大財閥なので、金と仕事と、それに群がる女には困らない」

「とにかく気分屋で、目の前を歩くものは何でも攻撃する」

「私もかなり・・・・」

どうやら、その真衣も被害にあった様子である。



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