第365話京都での披露宴(8)

マスターと、史、由紀、加奈子、愛華の「トライトゥリメンバー」が、始まった。

甘くせつないメロディと美しいコーラスが、会場全体に響き渡る。


「これは、絶品」

美智子

「涙が出るくらい、蕩けるような」


大旦那はまた泣き出した。

「佳宏と、佳宏を慕う子供たちの心が、こんなに美しい音楽になっている」

奥様は目を閉じて、うっとりと聞いている。

「佳宏君も、これでやっと、みんなのところに帰ってきた」


聞く人全ての心を魅了して、曲が終わった。

そして、終わると同時に、全員が立ち上がって、マスターたちに拍手を送る。

特にマスターは、恥ずかしそうな顔になるけれど

「一曲だけです、ありがとうございました」

と、頭を下げる。

由紀も

「声も渋みを増したね、いいなあ」

と満足顔。

加奈子と愛華は、歌いながら感動してしまったらしい、涙で声が出ない。


マスターが、まだ恥ずかしそうに自分の席に戻ると、涼子がマスターの手を握る。

そして

「ホテルでは怖かったし、厳しかったけれど」

とポツリ。

マスターは

「ああ、仕事の場だから当たり前」

と、ようやくいつもの顔に戻った。


史たちも、それぞれ自分の席に戻った。

司会の執事吉川が、再びマイクを取った。

「佳宏様、それから史君、由紀様、加奈子様、愛華様、素晴らしい演奏ありがとうございました」

「再び、祝宴をお楽しみいただくのですが、ここでもう一つ、サプライズがあります」

「この、純和風おせち料理の中では、異例となるのですが、佳宏様特製のレシピによる料理をお楽しみいただきます」


厨房の方から、素晴らしく香ばしい匂いが漂ってきている。

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