第364話京都での披露宴(7)

史のピアノ伴奏、愛華のフルートソロによるモーツァルトのフルートソナタの演奏が始まった。

テンポは、事前の練習通りに、少し速めになっている。


聞いている由紀

「うん、練習よりは愛華ちゃん、音が響いている」

「何より胸をピンと張っているから、音に芯がある」

「華やかだなあ、さすがモーツァルトだ」

そう言って、なかなか史をほめることはない。


加奈子は

「史君の合わせ方かな、愛華ちゃんの呼吸を読んで、上手にリードしている」

「これじゃあ、音大から誘われるのも当たり前だよ」

「その話を蹴飛ばすんだから、もったいない」

「西洋中世史ってねえ・・・あきれる・・・」

いろいろ考えていると、演奏が終わってしまった。


愛華と史が大きな拍手を受けていると、晃が立ち上がって、司会の執事吉川に耳打ち、吉川はマスターの前に向かう。

マスターが、吉川から何かを告げられ「え?」と言う顔になっていると、今度は史と由紀が、マスターに手を振る。

そのうえ、涼子までがマスターの脇をつついている。


史は、マスターのためらいなどは見なかった。

そのまま、マイクを握って話しだした。

「さて、これから、僕と姉の由紀が子供の頃、ずっとマスターに聞かせてもらった曲を演奏します」

「トライトゥリメンバー」

「マスターのリードボーカルに、由紀と加奈子ちゃんと愛華ちゃんが合わせます」

「どうかお聴きください」


会場からは、すごい拍手。

マスターも

「仕掛けられちまった、しょうがねえなあ」

と、頭をかきながら、史の隣に歩いてきた。


そして、「全く・・・」

と言いながら、うれしそうである。


由紀がマスターに声をかけた。

「おめでとうございます」

「ずっとマスターと一緒に歌いたかったの」

「それって、子供の頃からだよ」

由紀は、そのままマスターの手を握った。

途端にマスターは照れた顔になる。


史も、うれしそうな顔をして、ピアノの前奏を弾き出した。

その史のピアノ前奏に続いて、由紀、加奈子、愛華の女性コーラスが重なった。


そして、マスターのリードボーカルが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る