第352話京都に着いた晃一家

さて、晃の一家も、京都に到着した。

宿泊先は、晃の実家、大旦那の本邸になる。

しかし、実家といっても一家で宿泊する際には、同じ敷地内にある離れの別邸に泊まる。

駅構内を歩きながら、由紀もそれを本当に楽しみにしている。

「うん、あの離れ大好き」

「お部屋も明るいし、少しレトロだけど、その雰囲気が好き」

史も、楽しみのようだ。

「そうだね、4LDKで、全て八畳サイズだから、けっこう広い」

「キッチンも使いやすい」

晃も会話に加わってきた。

「そうだねえ、あの離れは来客用で、大旦那がこしらえたんだけど、あまり使っていないなあ」

「少しもったいない気もする」

美智子は

「そうねえ、活用と言っても難しいねえ」

「でも、気兼ねなく泊まれるからそれがいいかな」

やはり美智子も、「一族」への心労はある。

いつもよりは緊張した顔になっている。


さて、晃の一家が京都駅のエスカレーターを降りると、本邸の執事の吉川が走ってくる。

そして晃一家の前に立ち

「晃様、美智子様、由紀様、史様、お待ちしておりました」

「早速、御車に」


晃は

「ああ、吉川さん、わざわざ、すまないねえ」

「でも、由紀も史も風邪が抜けきっていないから、素直に甘えさせてもらうよ」

柔らかく微笑み、家族に目配せをして歩きだす。

美智子、由紀、史も素直に晃の後を歩く。


車はやはり黒ベンツ。

車内で、晃は

「孝兄さんと彰子姉さんは準備で忙しいのかな」

と執事吉川に尋ねると

「ああ、ほぼ準備は整っています」

「といっても、毎年恒例ですから、慣れたものです」

と、安心する答えが帰ってきた。


吉川は言葉を続けた。

「少し違うのは、今年はマスター、いや佳宏さんのご一家が来られるので」

「料理人たちが、目の色を変えています」


由紀は

「そうかあ・・・マスターはここでも、食べるだけの人になるんだ」

「それも面白いねえ」

と笑い出した。


美智子も

「横浜のホテルの披露宴の時にさ、マスターって食べながら時々首を傾げるの」

「あれね、調理が気に入らない時の顔、すぐにわかった」

クスクス笑っている。


史は

「そうだね、レシピ通りに作っているんだけど、微妙に違うんだよね」

「やはり、マスターの味のほうが深みがある」


ただ、そんな話をしている史のスマホが光った。

史が「え?」という顔でスマホを見ると、加奈子からのメッセージだった。


「史君、お屋敷で待っている」

「着いたら、早速練習」

そこまでは良かった。


「愛華ちゃんもいるよ」


史は、「何で?」

史は、全く意味がわかっていない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る