第351話マスターの実家

マスター一行を乗せた黒ベンツはが、広い敷地内に入り、少しレトロな洋館の玄関前に横付けとなった。

運転手と、執事橘は、さっと車を降りてドアを開け、マスターたちを降ろす。

「坊ちゃま、寒うございます。早く中へ」

とにかく急かしてくる。

荷物は、運転手がどんどん洋館の中に運び入れている。


マスターは苦笑

「しょうがねえなあ、全く庭を見ようと思ったのに」

涼子は

「う・・・すごすぎ・・・足がすくむ」

となるけれど、のんびりしていると、また急かされるので、橘に続いて洋館の中に入った。


マスターは懐かしそうな顔になるけれど、涼子はここでも驚いた。

涼子

「あら・・・赤絨毯がフカフカ」

「壷とか絵とか、高そう・・・」

「なんか雰囲気が横浜のレトロなホテルみたい」

「それに空調がしっかりしているのかな、外と全然違う、暖かいなあ」


涼子が驚いていると、マスターが「こっち」と言うので、続いてリビングらしき部屋に入った。

その中は、黒光りするマホガニーの大テーブルと、ここでもレトロでフカフカの椅子、大きなガッシリ系の暖炉も目に入った。


橘はキビキビと動いて、紅茶とクッキーをテーブルの上に置く。

「さあさあ、お寒うございましたでしょう」

「お口にあうかどうかわかりませんが」

と、勧めてきた。


マスターは「うん」と言って紅茶を一口、そしてクッキーを目を閉じて食べている。

涼子も、それを見て

「はい、私も遠慮なく」

本当は、遠慮も必要ないけれど、ついつい気後れがしているようだ。


しかし、紅茶とクッキーを口にした涼子の表情が一変した。

「うわ!この紅茶、蒸らし方が完璧、水も美味しい、茶葉はダージリンのファーストフラッシュだ」

「それに、このクッキー・・・バターも凄いし砂糖とか・・・全てが完璧」

本当に驚いてマスターの顔を見ると、マスターは笑った。


マスターは、橘をチラチラと見ながら

「ああ、これはおふくろの味」

「そのおふくろも、橘のおじさんから、仕込まれたんだ」

「まあ、橘さんは、俺の紅茶と珈琲の師匠でもあるね」


橘は、それを聞いてニッコリ。

「そうですね、佳子さんと坊ちゃまに教えて」

「それが晃さんのご長男の史君が継承されたんです」


涼子は

「うん、いいなあ、私も祥子が成長したら、継承させよう」

「その時の師匠は、史君」


マスターと橘は、幸せな顔で、涼子と祥子を見つめていた。

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