第350話マスターの京都到着

マスターと涼子、祥子は京都駅に到着した。

マスターが「久しぶりだな」とつぶやくと、涼子はその表情を心配そうに見る。

やはり「一族」の仲間に久しぶりに顔を見せる、その不安からなのだろうか。

また、涼子自身もはじめて「一族」への顔見せとなる。

マスターは、すぐに涼子の視線に気がついた。

そして「大丈夫だ、心配するな」と微笑みかける。

涼子も、その微笑みで気持ちを落ち着けた。


京都駅のエスカレーターを降りると、一人の上品な服を来た初老の紳士が走り寄ってくる。

そしてマスターたちの前に立ち、深く頭を下げた。

「佳宏坊ちゃま、橘でございます」

その時点で「橘」は、目を潤ませている。


マスターは

「え・・・橘さん?来てくれたの?」

「まあ、連絡はしたけれど」

と驚く。


その橘はすぐに、マスターたちの荷物を全て抱えてしまう。

「ささ、寒うございます。涼子様にも祥子様にもお風邪を引かせるわけには行きません、車を用意してございます、お急ぎに」

「坊ちゃまが来られるのにお迎えに来るのは当たり前です!」

そして、そのまま歩きだしてしまう。


涼子は、突然のことに目を丸くする。

その涼子にマスターは

「ああ、俺の京都の屋敷の執事をやってもらっている」

「うん、俺が子供の頃からの、だから俺のことを坊ちゃまなんて言うんだ」

「今は俺がずっといないから、屋敷の管理人をやってもらっている」

一応、説明をするけれど、執事橘から声がかかった、

「とにかく寒うございます、お急ぎに」

これでは、のんびり歩くことなど、全く出来ない。


マスターたちが乗り込んだ「車」は、ドッシリとした黒ベンツである。

運転手もマスターとは知己らしく、深く頭を下げてきた。

またしても涼子は「マジ?」と言う顔になるけれど、とりあえずマスターと執事橘の会話を聞くことにした。


マスターは橘に声をかけた。

「橘のおじさん、ありがとう、長い間、迷惑かけたね」

橘は、涙声。

「はい、やっとです」

「どれほど心配したことか」

マスター

「屋敷も久しぶりだな」

「はい、全て変えておりません、全く一緒です」

「お父様の宏様のお部屋も、お母様の佳子様のお部屋も」

橘の声が、また湿った。


マスターも、声を低くした。

「そうかあ、ありがたいなあ」

「屋敷に戻って、少し休んだら、墓参りでもするかな」


橘は

「はい、是非、またご案内をいたします」

とだけ、涙で声が出ていない。



さて、車内で、そんな話をしていると黒ベンツは繁華街を抜け、高級住宅街に入った。


マスターが

「涼子、あそこだ」

と声をかけると


涼子

「うわ!すっごい!格好いい」

その目を丸くした。


涼子の視線の先に、広い敷地と、その中に大きくて少しレトロな洋館が見えてきた。





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