第309話よくわかっていない史
さて、軽食を終えた史は、地下ホールの練習場に戻った。
練習後に「クリスマスコンサートのアンコールの打ち合わせ」に参加するためである。
「まだ、第九の練習が終わっていない」
史は、練習が終わっていないことにホッとする。
ちらっと由紀の顔を探すと、由紀も合唱の中に入って歌っている。
少なくとも、今の時点で怒られることはない。
もっとも、史自身が「何故、そんなに怒る?」と、よくわかっていないのだけど。
それでも第九の練習が終わった。
指揮者の榊原が、史を手招きするので、史もステージに向かう。
榊原は
「ああ、アンコールの打ち合わせを上のカフェ・ルミエールでする」
「出席者は、私とコンサートマスターの高橋君、管楽器のリーダーの鈴木君と合唱団から一人、それから由紀ちゃんと史君」
と言ってきた。
「結局」またカフェ・ルミエールに戻ることになった。
そして、やはり由紀が言葉をかけてきた。
由紀
「史、さっきはどこに行ったの?」
「どうして、しっかり聞いていないの?」
「どうして誰とでも、ついていっちゃうの?」
「奈津美ちゃんとか結衣ちゃん、彩ちゃんだから、まだ大丈夫だけどさ」
「とにかく、史はアホで危なかしくって仕方がない」
史は
「アホは余分」
とムッとする。
「上でマスターたちとお話していた」
「いつでも戻れるようにビルの中にいた」
「それに、打ち合わせまで、用事がない」
と、事情を説明する。
由紀は、フンフンと頷き、
「あの時間にマスターたちとお話ってだけはないよね」
「もしかして、美味しいものを食べたの?」
「一人だけ?私、おなか減ったなあ」
「そういうことするんだ」
「ふーん・・・ふーん・・・」
途中から、何を察したのか、嫌味をタラタラ言ってくる。
そんな由紀に史は呆れた。
そしてつい
「姉貴だって、僕が大切に取ってあったベルギーチョコ食べちゃったでしょ?」
「すっごく楽しみにしていたのに、朝見たらない」
「母さんに聞いたら、姉貴が朝食べていたって」
必死に文句を言うけれど
由紀は負けてはいない。
「そんなの史が朝寝坊するから悪い」
「あのチョコだって愛華ちゃんから、もらったんでしょ?」
「そういう問題なものは、私が処分してあげたの」
「感謝しなさい」
史は黙ってしまった。
「どうせ、口では負ける、マスターに任せよう」
ただ、由紀の言葉に疑問を感じた。
「愛華ちゃんのチョコレートの、どこが問題なんだろう」
「濃いお酒でも入っているチョコかなあ」
結局、「よくわかっていない」史である。
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