第169話お昼のメニュー(1)

洋子は最近考え込むことが多くなっている。

それは、昼間のカフェ・ルミエールのメニューがケーキと紅茶、珈琲等の飲み物がほとんどであり、食事系では評判は高いけれど、サンドイッチしかないことである。


「どうしても、もう少しボリュームが欲しい場合もある」

「そうかといってピザとかパスタは店のイメージが変わってくる」

「重たくなるなあ」

様々、考えるけれど、なかなか思いつかない。

それに新しいメニューを売り出すとなれば、それだけ仕入れも増える。

売れて成功すればいいけれど、全然人気が無ければ損にしかならない。


「パリでもケーキばかり作っていたなあ」

「パリに行く前も帰ってきてからもそうだ」

もともとパテシィエほぼ専門でやってきたので、それ意外の料理を客に出したことはない。


「でも、地域密着を考えるならば、もう少しボリュームがあって・・・」

ずっと考えていると、史と由紀が入ってきた。

そして何か紙で出来たようなケーキの箱のような物を持っている。


「え?何?」

洋子はキョトンとしてしまう。

どうしてケーキ屋でもあるカフェ・ルミエールにケーキを持ってくるのだろう、不思議でならない。

ただ、史と由紀が来たからには、おそらく二人の母にして洋子の大先輩の美智子からのものだとすぐにわかる。


「えっと・・・母からです」

史が慎重に、そのケーキ箱を渡そうとすると、由紀が史を叱る。

「このアホ!ちゃんと言いなさい!」

「この間の演奏会とか、打ち上げパーティーのささやかなお返しです」

やはり、由紀の説明のほうがわかりやすい。


「あら、お礼なんかいいのに・・・」

「でも・・・何だろう」

洋子も箱の中身が気になって仕方がない。


「開けていい?」

まあ、受け取ったのだから開けるのは当たり前だけど、洋子はドキドキしながら大先輩美智子からの届け物を開ける。


そして、

「あーーーーー!これがあった!」

洋子の顔はパッと輝いた。


「そうかあ!キッシュか!これなら!」

「仕入れも料理も慣れている!」

「感謝感激、さすが美智子大先輩だ!」


美智子が史と由紀に持たせた箱の中には、四種類のキッシュ。


「丸ごとトマト2種のチーズソースのキッシュ」

「ラタトゥイユのキッシュ」

「ラザニアのキッシュ」

「プリンのキッシュ」


洋子の大喜びの顔を見て、史が一言。

「そう言えば、母さんがこの間メニューを教えてって言ったので持っていきました」

由紀も少し首をかしげる。

「うん、母美智子がね、ずーっとキッシュばかり作っているから、なんだろうって思っていて・・・何でしょうね」


洋子は、由紀には答えなかった。

それより前に、美智子に電話をかけている。


「ありがとうございます!」

「今度、教わりに行きます!」


史と由紀は、二人して首をかしげている。









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