第170話お昼のメニュー(2)

洋子が美智子に教わりに行くこともなく、美智子のほうから紙包みを持ち、店にやってきた。

「うん、暇だったから」

美智子はニコニコと笑っている。


洋子は、本当に恐縮している。

「すみません、わざわざ・・・」

「私が素晴らしいヒントをもらったのに」


そんな話をしていると、奈津美もキッチンから出てきた。

そしてうれしそうな顔になる。

「伝説の名パテシィエにして史君と由紀ちゃんのお母様」

「それにあの素敵な源氏学者の晃様の奥様」

「・・・でも、それより何より、私にとっては大恩人です」

奈津美は、小学校六年生の時に「校内イジメ」で泣いていた時に、一年生の史に誘われ、美智子のケーキを食べて、立ち直った経験がある。

それを今でも感謝している。


「ああ・・・いやいや、あの時の奈津美ちゃんが、こんなに立派になって」

「そのうえ、史の怪我の時は、病院まで送り迎えしてくれてお世話になりました」

美智子も、奈津美に感謝している。


「でもねえ・・・」

洋子が美智子の顔を見る。


「え?なあに?」

美智子は洋子の考えていることが、よくわからない。


「あの伝説の名パテシィエの美智子さんが、ずーっと家にいるってね」

「それが、もったいなくてね」

「今でも腕とかセンスはピカイチです」

「史君と由紀ちゃんにもたせてくれたキッシュだって、美味しいなんてレベルじゃないです」

「できれば、手伝ってもらいたいくらいで」

洋子は、そのまま美智子の手を握ってしまう。


奈津美も

「私も教わりたいくらいです」

頷いている。


美智子は、少し苦笑。

「ああ・・・引き込んだと言われてもねえ・・・」

「何しろ、史がね、小さい頃から風邪ばかり引くしさ」

「由紀は、あんな性格で、弱い史に文句ばかり言うしさ」

「本当は仲がいいんだけどねえ・・・」


洋子も奈津美も、その答えには苦笑する。

「まあ、やはり史君か・・・危なっかしいところあるしね」洋子

「でも、美智子さんが家にいてくれから、私も救われたしねえ」奈津美


美智子はまた苦笑、それでも話題を変えたいようだ。

「まあ、仕事に復帰は、子供二人がマトモになってから」

「ニューグランドは難しいけれど、ここならいつかは来たいなあと思っているよ」

「で、それでね・・・」

美智子は紙包みをチラッと見せながら、洋子と奈津美に目配せ。


洋子と奈津美は、すぐに美智子の意図がわかったらしい、

さっそく三人でキッチンに入っていく。

やはり料理人たちは、料理で語り合いたいのだろうか。

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