第146話マスターのお説教(2)

カウンター前の席で泣き出してしまった女性には、美幸以外のマスターも当然、他の客も気になっている。


マスターは、美幸を手招き。

「ああ、俺が対応する」

そう言われると、美幸としても、マスターに任せるしかない。

確かに同じ女性といっても、あまりにも歳も異なる。

ただ普通の接客では、対応が出来ないと思ったのである。


マスターは女性客の前に立った。

そして、しばらく、泣いている様子を見る。


「すみません、すみません・・・」

女性客もマスターの気配に気づいたのか、詫びるけれど、そもそも涙声で、よく聞き取れない。


「ああ、いや、いろいろ、あるでしょうから」

「私どもを、信じてください」

「ごゆっくりと」

マスターはゆっくりと柔らかく、その女性客に声をかける。

その柔らかさが、女性客の心に響いたのか、また涙が激しくなる。


「ありがとうございます、ありがとうございます」

また女性客は泣き続けた。


「大丈夫ですよ」

「ここのお店で、たくさん、心の苦しさを流していってください」

「このお店は、そういうお店ですから」


マスターは、ここでBGMをまったく違うものにした。


ショパンのノクターン第四番、今までのジャズとは、ガラリと雰囲気が変わっている。


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