第136話合唱コンクール(1)

ついに合唱コンクール当日が明日になった。

合唱部顧問岡村が少し緊張気味の合唱部員たちに声をかける。

「何も心配することはないよ」

「大丈夫、音楽的には十分立派に仕上げた」

「普通通りに歌えばいい」

大きくおおらかな声で、語りかけるものだから部員たちも、その緊張顔を少しは和らげる。

岡村は、もう少し付け加える。

「まあ、今日は家に帰って、ゆっくり目にお風呂に入って、それでも普通の時間に寝ること」

「それだけで十分」

そこまで言って、合唱部部長の由紀に次を促す。


「私たちね、本当に岡村先生にはお世話になった」

「前の顧問では、本当に苦労したから」

「だから、岡村先生への感謝をこめて、精一杯歌おうよ」

「先生を信じて」

由紀の言葉には、岡村顧問への感謝があふれている。


岡村は少し恥ずかしそうな顔になる。

「ああ、いや、僕はね、君達の音楽が大好きなのさ」

「だから、いつもの通り、僕の指揮通りにね」

少しウィンクまでしている。

時々は茶目っ気があるようだ。


そんな音楽室に、榊原が入ってきた。

「ああ、大丈夫だよ」

「心配しなくていい、音楽そのものが、君達は別格だ」

「そのまま、歌えばいい」

榊原も岡村と同じ、おおらかでドーンとしている。

部員全員が、また和んだ時点で、ピアノを弾いていた史が指揮台の所にきた。

何か話があるようで、ポケットからメモを取り出している。


「えーっと・・・」

やはり女生徒集団の前では真っ赤になる史であるけれど、懸命にメモを読むようだ。


「コンクール終了後は、カフェ・ルミエールに集合願います」

「私のケーキとマスターの料理でお待ちしています」

「貸し切りにしたから、安心してください」

「とにかく、思いっきりね  洋子」

史がメモを読み上げると、合唱部員から大きな歓声があがる。


ただ由紀だけは、少し文句顔。

「なんであの程度でメモ読む?」

「やはり、史はアホだ、覚えが悪い」

「でも、今日だけは叱らないであげる」

「まあ、ピアノは大丈夫だけど、本番が終われば、どうせ女どもに囲まれ、ヘマをするだろう」

「コンサートが終わったら思いっきり叱り飛ばす」

「それも楽しみだなあ」

由紀の文句顔は、いつのまにか、ニンマリ顔に変わっている。

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