第124話マスターのウィスキー講座(2)

マスターのウィスキー講座の今日の分は、「水割り」と「トワイスアップ」だけになった。

種類を増やそうにも、来店客が増えてきてしまったのである。


「じゃあ、水割りとトワイスアップは頼むよ」

マスターに頼まれ、美幸が少しドキッとしていると、カフェ・ルミエール楽団の指揮者の榊原、学園の合唱部顧問の岡村がカウンターの前に座った。


「水割りにしょうかな」榊原

「うん、同じく」岡村

さっそく、水割りのオーダーである。


マスターが、榊原と岡村に、少し頭を下げる。

「今日から涼子は、産休になりましたので」

「美幸にいれさせます」

マスターとしても、超馴染みの客には神経を使う。


「うん、それは仕方がない、美幸さんにまかせる」榊原

「ああ、何事も経験さ」岡村

二人とも、度量が大きい。

にっこりと頷く。



「それでは、不慣れですが・・・」

美幸は、習った通りに、水割りを作っていく。


「うん・・・マスターとほぼ、同じ動きだね」榊原

「でもさ、ちょっと違うよね」岡村

ポツリポツリという言葉に、マスターも美幸も、ちょっと不安。


「はい、水割りにでございます」

美幸が恐る恐る、二人の前に差し出すと


「うん、なかなか、美人に入れてもらうと、違うなあ」榊原

「そうだねえ、マスターのもいいけれど、美幸さんの手首の動かし方とか、新鮮でいいな」岡村


「それじゃあ・・・私が、美人はともかく、古めかしいってことですか?」

マスターは思わず苦笑。


「いやね、そうじゃなくてさ、同じことをしてもね、違うのさ」榊原

「若手女流ピアニストと、熟練のピアニストの違いさ」岡村


結局、榊原と岡村はトワイスアップも頼んだ。

トワイスアップもお気に入りらしい、そして、美味しそうに、にこやかに料理を食べながら、ずっと話し込む。



「私、ホッとしました」

「初めてのお客様が、この二人で」

美幸は、本当にホッとした顔になる。


「そうだね、美味しい酒と美味しい料理、楽しい会話、これがあれば、幸せなんだ」

「美幸ちゃん、これからも、頼むよ」

マスターも、ホッとした顔になっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る