第123話マスターのウィスキー講座(1)

出産が近くなり涼子は、夜の店には出ないことになった。

マスターとしても、その方が安心。

夜の部のカフェ・ルミエールは、当分の間、マスターと、涼子の後任として新採用した美幸だけになる。


さて、夜のカフェ・ルミエールも、なかなか盛況であるから、マスターは美幸にウィスキーの入れ方や、様々なことを教えることにした。


「美幸さん、ウィスキーは飲んだことがあるかい?」

マスターが美幸に尋ねると、


「ほんの少しだけです、勉強不足で済みません」

美幸は素直に謝る。


「そうか・・・そうなると、これから忙しいときには作ってもらうことがあるから」

マスターは、棚からスコッチを一瓶おろし、カウンターに置いた。

「で、今日は一般的な水割りとトワイスアップ」


美幸は、ポケットから、すぐに小ぶりのノートを取り出している。


「まず、水割りはね」

マスターは美幸がノートを開いたことを確認し

「グラスに大ぶりの氷を二、三個、グラス一杯にして冷やす」

「ウィスキーを適量注ぐ、といっても、配分はあるよ」

「この段階で、マドラーでかき混ぜて、氷でウィスキーを冷やす」

「天然水をウィスキーの量の二倍注ぐ」

「それでもう一度、マドラーでかき混ぜて完成」


美幸は、水割りを手に取り、少し飲む。

「うん・・・ウィスキーって度数も高くて、キツイって感じでしたけれど」

「柔らかくて、華やかで・・・」

美幸は、ウットリ状態で、もう一口。


マスターは、もう一つ教えるようだ。

「それで、トワイスアップ」

美幸が再びノートを開くと

「これは単純、氷は使わない」

「ますグラスにウィスキーを半分」

「同じ量の天然水をグラスに注ぐ」

「それで、水割りと違うのは、ウィスキーも天然水も常温であること」


「へえ・・・でも・・・」

美幸はトワイスアップを飲むのは初めてらしい。

「マスター・・・香りが、水割りと全然、違います、ふんわりとしていて」

「味も、温度の関係かなあ、身体にしみわたるっていうのか」


マスターはそこで

「様々、バリエーションが出来るけれど、これがまず基本かな」

「水割り派とトワイスアップ派もいるけれど」

「身体に優しいのは、トワイスアップかなあ」


美幸の目が輝きだした。

「マスター、面白くなってきました」

「私、作りますから、味見願います」


マスターはやさしく美幸の顔を見ている。

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