第125話史の音大見学(1)

史は、合唱部顧問の岡村から、かねてから誘われていた音楽大学の見学に応じることにした。

また、この話にはカフェ・ルミエール楽団の指揮者の榊原も大賛成。

「ああ、史君の音楽性は、素晴らしい」

「指揮にしても、ピアノにしてもね」

「確かに文筆の才能も優れているけれど、一度音楽大学を見るのも、勉強になる」

「大学の進路も決めなくてはいけないからね」


史としては、高名な音楽家二人に薦められては、断りづらい。

まあ、もともと、「頼まれれば嫌とは言えない」性格なのではあるけれど。


ただ、そんな史の音大見学をいろいろと思うものもいる。

まず、姉の由紀。

「もう!史ばっかり注目して!」

「私だって、合唱部部長なのに」

「それにさ、史はアホだから、音大のキレイなお姉さんたちのエジキになったらどうするの?」

「せっかく里奈ちゃんって可愛くて気がきいて俊敏で、ノロマの史にはピッタリの彼女がいるのに」

「また、面倒なことになる、恵梨香だって諦めてないっていうのに」


次に母の美智子

「えーーー?史が音大?」

「何で?ピアノはお習い事だよ」

「たまたま上手だっただけ、コンクール優勝はうれしいけどね」

「でもね、史は地味な性格だから、ああいうショービジネスは無理」

「音大のキレイなお姉さん?アホくさい!史なんか見向きもされないって」

美智子は、未だに史がモテることを認めないようだ。


カフェ・ルミエールの中でも

洋子は

「どうなんだろうねえ・・・そんな音楽でバチバチ張り合う世界って、ちょっと不安」

奈津美は

「大きなステージに出て有名になる史君もいいけれど、有名になりすぎてほしくないなあ・・・私たちの史君がいい」

その他の結衣も彩も、少し心配である。

結衣

「音大の女の子はね、とにかく派手で気が強い子が多いよ、苛められそう」

「私なんか心配で付き添いしたいぐらい」


さて、史が唯一満面の笑顔で接する里奈は、かなり不安な顔。

「・・・どうしよう・・・音大なんて私には別世界だよ」

「ますます、史君・・・遠くにいっちゃうの?」

「また眠れなくなる・・・」



まあ、いろいろ不安はあるものの、史は「見るだけ」ということで、音大見学をすることになったのである。


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