第100話カフェ・ルミエールの新メニュー(6)

「お父さ~ん!」

由紀にとって、我が家で唯一の味方の晃が帰宅した。

既に高校二年生、三年になるのも間近というのに、由紀は父に子供の頃から、ベタベタである。


「おいおい、どうかしたの?」

既に五十歳を少し超えたにもかかわらず、晃は黒い髪がふさふさ、シワもほとんどない、そのうえ、娘の由紀が見ても、かなりな美形である。

また、話の仕方も相変わらず柔らかい。


「えーっとね、あのね・・・お菓子のことなんだけど」

由紀の言葉の出し方も、子供の頃から全く変わらない。


「へえ、お菓子?」

晃は靴を脱ぎ、廊下を歩き、リビングに向かう。


「うん、そうなの、洋子さんが、母さんと新作を作るんだって」

由紀は、リビングのソファに晃を座らせる。

そして、由紀と晃の会話が始まった。


「へえ、それは面白いねえ、どんなの作るのかな」晃

「えっとね、和風洋菓子とか、洋風和菓子とか言っていてね、それも、この家のキッチンで夜に作るんだって」由紀

「ふんふん、それはそれは、美味しいものが食べられるねえ」晃

「そのうえね、木村和菓子店の奈津美さんとか、親方も来るみたい」由紀

「あれあれ、これは大掛かりだねえ」晃

「でね、それでね、私も何か作れないかなあ、父さん」由紀

「え?由紀も作るの?」晃は、ちょっと驚いた顔。

「うん、だってさ、史が味の判定をするとかって、なるでしょ?母さんがいるからさ」由紀の話は、ようやく本題に入り始めた。

「ああ、史か・・・いいだろうね、舌はしっかりしているね」

晃も、すぐに納得した。

しかし、それでは、由紀が困る。

「ねえ、父さん!そうなると、私の居場所がね・・・だから・・・何か作りたいの」

由紀は、ほぼ「懇願状態」になっている。


「・・・そうなると・・・参考になるか、ならないかわからないけれど」

晃は、鞄を開けている。

そして、何かお菓子らしい箱を取り出す。


「え?何?父さん?」

由紀は、興味津々な顔になる。


「うん、たまたま博多の先生と話をしていてね、お土産にもらったんだ」

「博多の通りもんってお菓子」

晃は、「博多通りもん」をテーブルの上に置く。

「ああ、母さんと史も呼んできて、量もあるし」

晃が由紀に頼むと、すぐに二人とも出てきた。


母美智子は、風呂上がりらしい、少し顔が赤い。

母美智子「ほら!由紀!お茶ぐらい、いれなさい!」

いきなり、厳命、由紀は口を尖らせながら、お茶をいれる。


史は、お茶を飲みながら、「博多通りもん」を一口。

「これって、洋風和菓子の典型の一つで、有名だよね」

「中が白あんなんだけど、練乳とバターも入っていて、皮にもミルクの香りがする」

「少し甘めだけれど、出来たては美味しいのかな」


美智子もすぐに品評する。

「史の言う通り、よくこういうお菓子を考えたと思うよ」

「私の頭の中には、このアレンジもあるの」

「さすが、父さんだねえ」


由紀も一口食べて美味しいとは思うけれど、それ以上に史の「生意気な言い方」が気に入らない。

ついつい文句を言ってしまう。

「史!お父さんがせっかくもらってきたんだから、偉そうなことを言わないの!」

「それに、どうして、そんな詳しいことを言うの!」


史も、ちょっとムッとして返す。

「うん、里奈ちゃんと食べたことある」

「里奈ちゃんのお祖父さんは博多出身だって」


史の「返し」が、由紀はますます気に入らない。


そんな由紀をチラッと見ながら、晃が一言。


「里奈ちゃんにも、史がお世話になったんだから、美味しいお菓子を食べさてあげよう」

「由紀もしっかりお礼しないとね、姉なんだから」


由紀は、口を「への字」に結んでいる。

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