第84話カフェ・ルミエール楽団コンサート(5)

「さて、弾いてみるかな」

いつもの史の優柔不断さは全くない。

史は、すんなりと地下ホール、ステージ上のスタインウェイのピアノの前に座り、楽譜を広げた。

そして、いきなり弾き始めてしまう。


「ほう!三楽章か!」

榊原は、背筋がピンと伸びた。

「うわ!かっこいい!華やか!」

洋子は、演奏が始まるなり、大興奮。

「史君って繊細な演奏ばかりじゃないねえ!パワフルでキラキラして、ますます惚れちゃう!」

結衣の目は、ウットリ状態。

「リズムのタメとか、ダイナミックスの付け方とか、超クッキリだ、とにかく力強い・・・いいなあ・・・史君、私もデートしたくなった」

とうとう彩の目まで、史に釘付けになった。

「いやー・・・史君の別の魅力発見だ、繊細でナイーブだけじゃなかったんだ」

奈津美もウットリとして史を見つめている。


演奏が止まったところで、榊原が史に声をかけた。

「史君、皇帝にするかい?」

「これほどできれば、メンバーも問題はないというか、大歓迎だよ」

「華やかな曲だし、初回のコンサートとしてはいいと思うけど」


その問いかけに史が応えた。

「はい、けっこう響きも良いホールですね」

「それを確認したかったので、皇帝にしました」

「収容人数も400人ぐらいで、皇帝には問題ないですね」

とにかく否定はしていない程度である。


そんな史に由紀が声をかけた。

「このアホ!そうじゃないって!」

「コンサートのプログラムに皇帝にするか、しないかでしょう!」

「どこに耳がついているの!」

またしても、由紀は史に怒っている。


「ああ、皇帝にします」

史は、由紀の怒りが、ようやくわかったらしい。

皇帝を了承した。

しかし、もう少し考えがあるようだ。

そのまま、ステージを降りてきた。

そして榊原と話を始めてしまう。


「ブラームスも弾きたいし、モーツァルトもバッハも・・・」史

「ジャズやロックもいいかなあ」榊原

「ここは響きもいいし」史

・・・・・

とにかく、音楽家以外にはわからないような、コアな話を二人で続けている。

そして、いつの間にか、二人はまた何かやりたいことが出来てしまったようだ。


史はまたステージに上がり、榊原はヴァイオリンのチューニングを始めた。


「え?何?ピアノとヴァイオリン?」洋子

「ほーーー何を弾くのかな」奈津美

「むむ・・・いきなりバッハをジャズで?」結衣

「まさか、史君と榊原先生のジャズなんて・・・でも心に響くなあ」彩


他の女性は感激しているようだけど、由紀だけは認めたくないらしい。

「もーーー史め!私に黙って皇帝は練習しているし、おまけにジャズ?」

「あーーー気に入らない!」


そんな由紀の複雑な思いはともかく、史のコンサート出演は確定となった。


そして、初回コンサートは、三週間後の日曜日に決定した。

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