第57話カフェ・ルミエールの広報誌(5)

史は、洋子の経歴については、史の母の美智子から聞いてある程度は知っているようだけど、やはり自分でも聞きたいらしい。

そのため、過去の一つ一つの話になり、取材時間は多くなりそうだ。

それは洋子にとっては「シメシメ、よしよし」だけれど、さすがに時間には制限もあった。

少しだけ話をした段階で、奈津美が出勤してきたのである。


そして奈津美が店内で話をする洋子と史を見るなり、一言。

「あらーーーー!史君の取材ですか?いいなあ!次は私?早くして欲しいなあ」

とにかく、洋子にとっては「本当におジャマ虫」である。


おまけに史は、洋子から視線を外し、奈津美の方を向く。

「はい、このカフェ・ルミエールの広報誌なので、奈津美さんも登場してもらいますので、その時にはよろしくお願いします」

キチンと頭まで下げる。


「そうかあ・・・そうなると・・・」

今度は、奈津美が雅の隣に座ってしまった。

そのうえ、わりと「ピッタリ気味」に座る。

「どうせ、PCで作るんだからさ」

奈津美には、何か考えがあるようだ。


「え?PCだから何?」

洋子は、奈津美の意図が見えない。

それより、なるべく奈津美には席を外してもらって、「キッチンにさっさと行ってほしい」と思っている。

何より「史へのピッタリ座り」が気に入らない。


「もしかすると、ホームページとか?」

ところが、史は奈津美の考えをすぐにわかったらしい。

奈津美も、ニッコリである。


「さっすが!史君!若いから反応が早い!」

奈津美は、ポンと史の肩を叩いたりする。


「う?当てこすり?弟子のくせに!」

洋子は、本当に気に入らないものの、「大人だし」と思い、態度には出さない。


「一度、マスターと涼子さんにも、相談してみます」

「それから、企画書みたいなのを、僕が作ります」

「叩き台が必要なので」

洋子と奈津美の想いはともかく、史は全く冷静。


その後は具体的な話は、マスターの意見と、史の企画書待ちになった。


姉の由紀が迎えに来たこともあり、史は由紀と、洋子のサヴァランケーキと奈津美の紅茶を飲み、帰っていった。



二人がいなくなった後、奈津美は洋子の脇をちょっとつついた。

「洋子さんも、史君フェロモンに感染したんでしょ」


「・・・うん・・・お花畑フェロモンだ」

洋子の顔は、また赤くなっている。

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