第56話カフェ・ルミエールの広報誌(4)

「それで、洋子さん」

史の顔が、ようやく真正面をむいてきた。


「なあに?史君」

やっと独占インタヴューになると思い、洋子は途端にウキウキになる。


「はい、せっかくですから洋子さんのお話をお聞きしたいと思います」

史は、しっかり見つめてくる。


「う・・・これが、本物の史君フェロモン?マジ?」

「なんか、色っぽい・・・」

洋子はますますドキドキである。


ようやく、インタヴューが始まった。

「えっと、生年月日とか出身学校とか、パリ留学、横浜のホテルでの修行とかは、母が資料持っていたので」史


「あ、そうか・・・美智子さんが何でも知っているか・・・でも、生年月日は書いちゃだめ」

今さら・・・と思うけれど、史の前で生年月日なんか、言いたくない。


「そうですね、飲んだワインの杯数と、女性の年齢と恋愛の回数は聞いてはいけないって、聞いたことあります」

史は、しれっと、面白いことを言ってくる。


「・・・誰に聞いたの?」

それでも、洋子は聞きたくなった。


「えっと・・・マスターです」

なんとも史は素直である。


「そうなると、他の話になるので、ケーキについてとか、パリの話とか、横浜の話とか、いろいろ書きたいですね」

「一回だと、つまらないから、連載ものにするかなあ」

「でも、他の人のも書くからなあ」

史は、いろいろ考え出している。


「うーん・・・他の人のことも書いていいけれどさ」

洋子は、心を決めてしまった。

「私の記事は、史君だけにしてね」

「だから、史君は私の専門記者だよ」

洋子は、とにかく史を独占したいらしい。


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