第52話涼子の後任(3)

涼子の後任として、何人かの面接と実技を経て、まず女性が決まった。

洋子の出身の料理学校の学生で、名前は「美幸」。

機転の良さと、落ち着き、しっとりとした和風美人である。


「ありがとうございます、ここのお店には憧れていました」

アルバイトながら採用が決まり、美幸は選考をした、女性たち全員に頭を下げた。


「うん、とにかく仕事がしっかりしているから、選んだの」洋子

「いろいろ覚えることもあるだろうけれど、よろしくね」奈津美

「とにかく名人だらけのお店、うらやましいくらい」ひとみ

「大丈夫だよ、仕事は厳しいけれど、人は優しいから、ここの人たちは」美智子

「しっかりメモを取ってね、私も残しておくけれど」涼子


マスターからも声が掛かった。

「とにかく、この店の流儀にそって、言われる通りにやってくれ」

「それがしっかり身についたら、適宜アレンジをすればいい」


マスターの表現が一番、的確らしい。

美幸を選んだ女性たちも、異論はないようで、素直に頷いている。


「それで、そうなると歓迎会だねえ」

洋子が、全員の顔を見た。

「うん、お披露目パーティーかなあ」

奈津美はうれしそうな顔になった。

「でも、奈津美ちゃんのお披露目パーティーもしていないよ」

涼子は、チラッとマスターの顔を見た。

「ああ、私は見習い修行なので・・・」

奈津美は、腰を少し引いて遠慮する。

「いやいや・・・それだったら親方も呼んでパーティーしようよ」

美智子は、涼子の顔を見る。

「うん、どうせやるなら、人も多いほうがいいなあ」

涼子は、マスターの顔を見た。

「そうなると・・・ひとみちゃん、ひとみちゃんの親方も呼ぼうや」

マスターは、ひとみに声をかけた。


「・・・なんか・・・すごいことになってきちゃった・・・」

美幸は、少し驚いている。


その美幸に洋子が笑った。

「これも、この店の流儀でね」

「とにかく、パーティーが多いの」


「榊原さんとか岡村さん、学園長、産直市の人たちとか、自治会長も呼ぶかなあ」

「それで・・・そうなると・・・料理もいろいろ」

マスターは、すでに料理のメニューまで考え始めている。


「まあ、二人の歓迎会も兼ねて、地域にもお披露目もあるしさ」美智子


「音楽付きだ、これはなかなか」ひとみ


「これで史君がいないのが、つまらないなあ」

奈津美は、少し寂しそうな顔をする。

ただ、美幸は史については、初耳である。


「え?史君って?」

美幸は、奈津美に尋ねた。


ただ、奈津美より、他の女性のほうが反応が早い。


「あはは、この美智子さんの息子さんでね、超美少年」洋子

「今はちょっと怪我していて松葉杖なの」涼子

「ちょっと写真見せてもらったけれど、ほんと、超かわいいの、弟にしたい」ひとみ


少し遅れた奈津美が顔を赤くした。

「とにかく、一度見ると、トロンってなるよ」


「へえ・・・見たくなりました」

美幸も史には興味があるようだ。


「え?だめ!それは・・・みんな変だって!」

「どうして、あんな史なんかに、みんなそうなるの?」

美智子は、またしても慌てている。


どうやら、母親が一番わかっていないらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る