エピローグ 『少女が避けられない、因縁の戦い』

カツーン、カツーンと、イースフォウの足音が響く。

工場内東の入り口。どうやらここは荷物の搬入口で会ったようだ。そこそこの空間が広がっている。

工場内は薄暗い。非常用の電気のみがついた状況だ。ただかろうじて内部の様子が見えるのは、天窓から差し込む月明かりのおかげでもあろう。

ゆっくりと足音を響かせながら、イースフォウは奥へと進む。

発信器の反応は、丁度施設の中心あたり。複雑な構造をした施設であるが、こちらには図面もある。全力で駆け抜ければ、あるいは十分もかからずにその場にたどり着けるかもしれない。

だが、ゆっくりと歩む。警戒しながら、周囲の様子をうかがう。

そもそもイースフォウは、周囲の様子をうかがう探査系の術が上手くない。そのためもとより備わっている五感を頼りにするしかないのだ。

しかし彼女の警戒も、杞憂に終わった。

一つの空間を抜けると、さらに一つ大きな空間にでた。特に何も置かれてないせいか、何の用途で使われたスペースか解らない。しかしここに何かの製造機器やコンベアーを敷いたのならば、工場っぽくなるのかもしれない。

そしてそんな空間の中心に、人影があった。

薄暗い工場内だが、はっきりと解るはその眼光。鋭く、強い意志を見ることが出来る。しかしそれ以外の表情は解らない。顔はフードとマスクで覆われている。

そうあの時、イースフォウとイズミコの戦いに乱入してきた女だ。

だが、あの時気付かなかったことがあった。

それは彼女の服装。

「アムテリア学園の制服……」

ということは学生。しかもイースフォウと同じ学園の生徒である。

あの時一瞬の出来事であったが、不意をついたとはいえイースフォウを一撃で沈めた実力者である。

少なくとも、上級生だろうか。軍人ではないとはいえ、上級生の実力者が相手ともなると、イースフォウとしてはかなり分が悪い。

……が、ここまで考えて、イースフォウは一つ思い当たった事があった。

不意を突く素早い攻撃。それこそ目に見えない神速戦法。その存在を、イースフォウは知っていた。

加えて自分と大差のない体格に、アムテリア学園の制服。

そして何よりも、イースフォウを攻撃してくる理由がある少女。

ああ、そうか。なるほどそういうことか。

「この前はどうも………。それとも久しぶりと言うべきかしら」

そんなイースフォウの言葉に、フードの少女はクスリと笑う。

「なに、もう解っちゃったの?」

そう言いつつ、フードをはずし、マスクをとる。

それと同時に流れる赤毛。

「久しぶりで良いわよ。たった3週間でも、わたしにとっては永遠にも等しい長さだったわ」

笑いながら、赤毛の少女、迅雷のヴァルリッツァーことスカイラインは、イースフォウに語る。

「イースフォウ。再戦しに来たわよ?」

最悪のタイミングで、最悪の敵が現れた。イースフォウは軽い眩暈を覚える。

「……言っても解らないと思うけど、今あなたにかまってる暇はないよ。後でいくらでも戦うから、ここは見逃してくれない?」

しかしその願いもきっぱりと切り捨てられる。

「ここじゃなきゃ意味は無いわ。ここを通りたければ、本気で、それこそ殺すつもりで駆け抜けなさい」

そう言って、スカイラインはイースフォウに向かって何かを投げた。

警戒することも無く、イースフォウはそれを受け取る。

「………ストーンエッジ」

ペンダント形に携帯化した、イースフォウ専用の伝機だった。クロとヒールは付いてはいなかったが、間違いなく奪われた伝機だ。

「それが無いあなたと戦ったって何の意味も無いわ」

そう言って、スカイラインは彼女の伝機、レイレインを展開する。

もはや、やるしかない。イースフォウも覚悟を決めた。

「開放して!!」

伝機を胸の前で手の中に包み込み、そう唱える。

光に包まれたイースフォウ。次の瞬間戦闘服を装備して、伝機を構える。

「あなたを倒すわ、イースフォウ!!」

「ここを抜けせてもらうわ、スカイライン!!」

二つのヴァルリッツァーは、再びぶつかりあった。



決戦編に続く

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