第17話『帰路』

グロウヴァイツ第A500-1番地 夜


強襲型偵察機:RBYF-19E 大輪

重装型火力支援機:H-VLWS-6D ブルース・D


 夜とはいえ暗くもない、むしろ昼間より光源が増えて明るい繁華街を、2機の人型機体はお喋りしながら歩いてゆく。

 

 人型どころか整備機の四角や三角、四脚やキャタピラと擦れ違うのに苦労して、ねぐらである戦機宿舎へ帰る途中なのだ。


「なんであの店、今日はあんなに喧しかったんだ・・・?」


「分からん。なんかバーテンがゲロの掃除をしてたがのう」


 上機嫌で飲んで食って、支払い直前に「明日までに仕上げたい書類を思い出した」と、急いで帰ってしまった楊貴妃は此処には居ない。恐ろしい人である。


「じゃあ俺は実機の虎徹(注1)が研ぎ上がったそうだから、それだけ見に行ってくるぞ」


「おうじゃあお先・・・って、またZZ-s12の虎徹かおい。以前前もその前も同じの整備に出してなかったかの?」


「ああ。虎徹は出力バカの半分使い捨てだからな。メンテしないと格段に切れ味が落ちる」


「いやそうでなくてだの」


 ブルースはよく通る街並をいつも通り眺め回し、各所の耐久性と防御力のデータを更新する。

 立ち飲み屋『二八』の看板がへこんでおり、以前より道にはみ出さない所に移動されている。良いことだ。


 そんなことを考えながら整備街の入り口まで大輪と一緒に足を運ぶブルースは、疑問の核心を口にする。


「なんで使う機会もない虎徹ばっかりメンテしとるんだ??」


「だってカッコいいじゃないか」


 大輪の即答である。

 しかしまるで答えになってない。


「いや」


 そうでなくて。

 「使わないのになんでメンテする必要があるんだ」そう二の句をつごうとしたブルースだったが、その前に大輪が楽しそうに言葉を続ける。


「ZZの虎徹シリーズは、威力だけ重視してその他を考えてない所が良いんだ。耐久性・燃費・互換性・・・そんな継戦能力とかはゴミ箱に捨てたんだろう。だがな、この目的を達成するためだけの道具感、それ以外なんにも考えてない所が良いんだ・・・。強襲偵察なんてヤクザな機種をしてると、こいつが俺の分身みたいに思えてくるんだぜ・・・ふふふ」


「(・・・コレハヒドイ)」


「でだ、あんまりにもコイツが可愛くてな。実機で演習に出るたびにだ、思わず試し切りをしてしまってだな・・・」


「び、病気だのう・・・まあ、あんまり無駄遣いするんでないぞ?」


 損耗率で言えばワースト10に余裕綽々で入るのが強襲偵察機である、そのため神経を病むのも仕方あるまい。あまり悪くならないと良いのだが・・・。


 この話のあと、大輪は並んで歩くブルースとの距離が少しだけ広がったような気がしたが、光学測距で3cmしか距離は広がっていなかったので「きっと誤差の範囲内だ」と思うことにした。


 郊外へ向けて歩く2人の周りの闇は少し濃さを増した。






注1

『虎徹:ZZ社のビームカッター(注2)「虎徹」シリーズのこと。出力面では大人気のシリーズだが、反面耐久性にとても難がある』


注2

『ビームカッター:機体からの電力供給、又は武装電源ユニットからの電力で荷電粒子を発生し、一点に集中させ焼き切る兵器。一般的にビーム砲などより出力は小さいが、近距離焦点に粒子を集中する技術で効果を高められている』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る