第16話『悪酔い』
グロウヴァイツ第A500-1番地 夜
戦術機:TYW-10333 小野小町
思考1:
外郭ハッチと通路が爆発した。
「ど う し て こ う な っ た」
殆どの飛翔体は把握していた筈なのに。
光学兵器でもないし、戦場を覆う撒反射・散乱幕を抜いてくる程の大口径弾頭の痕跡を見逃してるわけがない。
「もしかして・・・内部工作されてる!? まっさかそんな事は・・・」
(そっとここ数ヶ月のシステムチェックデータに目を通す)
「若干、外部とのトラフィックが増えてるような・・・いや、こちらの工程チェックシステムの膨らみがいやらしいかも・・・。あ! 予備空調制御システム塔の横、緊急漏水工事とか、陰謀の臭いがします・・・」
~ナノセカンド後~
「チェック終了。よし。何も分からない。専門のガーディアンに任せよう!」
無理だった!
もしかしたら専門家とは違う、戦術機目線からの斬新なアイデアにより、侵入の痕跡を察知するかもしれない・・・とか思ったが、一般戦術機のささやかな知識では何の問題も発見できない。
モニタセンサ類のチェックも終了する。
結論は
『湧いて出た偵察機が、ハッチに侵入して爆発した』
であった。
「自分で出した結論なのに全く信じられないんだけどー!」
どうもあの砲爆撃に紛れて突入してきたらしい。
そう考えると一機だけ思い当たる機体がいないではなかったが、それは防衛ライン突入前から中破していて、突入時に爆撃に巻き込まれてロストしていた機体である。
「・・・ぼ、ボロボロすぎる。この機体で特攻まで持ったの?」
遠景で取れた荒い画像だけでも各部パーツに整合性が取れていない---つまり装甲又は部位の大きな破損---がわかる。
「被弾し過ぎて、特攻偵察にしか使えなくなったのは分かるんだけど。・・・けど、防衛ラインが接近・突破されるまで、こんな機体を見逃す筈がないのになぁ」
ちょっと可能性を考えてみよう。
「あー! 豪華装備のステルス機をこの機体を囮にして潜り込ませたとかー?」
防御陣地の只中に飛び込んでくる脅威を普通は見失ったりしない。
あまつさえ特攻自爆されたりすることはない。
そもそもこんなボロい機体で抜けられるわけがないので。
「・・・やっぱり他のステルス機が紛れ込んできたのかなぁ」
グルグル回る取り留めない思考。
基地内のデータはできるだけ洗ったので、更に外部センサーのデータと突き合せる。
突入方法は先制砲・爆撃に紛れて、超低空飛行で高速侵入する強行偵察。
ここまでは基本的なんだけど、なのに何で見失ったの?
「え~っと」
こういう時、先生は何て言ってたっけ・・・。
”戦術機:TXR-50032 Gogglee”先生 曰く
『
遠距離火力で目標を破壊し尽くすことが難しい場合、味方戦力を投入する必要がある。
そのためには、一時的にでも迎撃機構の許容を超える砲・爆撃量を揃え、防衛機構を飽和させる方法がある。
ただし、この場合の飽和攻撃は、”部隊の突入口を開くために行う”ものだと肝に銘じておくように。欲張っても碌なことはないぞ!
逆にこれらを防御する時のポイントは2つ。
1.処理能力を超える攻撃だろうが『ある程度の防御は出来る』ということ。
狙いが突入口を作ることであれば、”重要な点だけ”を守り通せばよい。
相手も馬鹿正直な突入ルートは作らないし、余裕があれば突入ルートを5本も6本も作ってくるだろう。だがそういった場合も敵の投入ルートを予測し、守り難いルートだけは確実に潰す。
2.ルートを塞ぎきれなかった場合、出て守るか篭って守るかは、相手の規模・目標・火力等によって決まるが・・・
』
「思い出した突入ルートだっ!」
待て待て。
でも相手が意図したルートはほとんど潰したし---実際、私ならあそこに残ったグニャグニャのルートから部隊を突入させるのは大いに躊躇う---周囲の戦闘もこちらが優勢だったから、飽和攻撃も寄せ集め感がハンパなかった。
グニャグニャルートだけでも残した相手は大したもんだ。
「うーん。敵が作ろうとしてたどのラインも申し分ないルート選定だし---だが、こちらがその意図を読んで要所を守るように迎撃リソースを割いてゆけば---このグニャグニャなルートだけ消しきれないまま残る・・・?」
部隊単位が突入するには、とても使えないルートである。
防衛圏内でこんなルートを飛べば、辿り着くまでに迎撃態勢が整ってしまう。
「ルート以外を強行突破させると・・・インベーダーゲーム---戦術訓練シュミレーター---の最弱AIでも戦力投入を躊躇うレベルの厳しさだし」
あの防衛線では、敵のルート構築を90%までは断ち切った自信があった。
だけどそこまで考えてなにか分かった気がした。
「うん、あれはやっぱり『ココ』から入ってきたんだ!」
敵の雑な砲火のルートを、こっちが継いで貼ってやらないと完成しないモザイクのグニャグニャライン。
あれはたぶん、このボロ偵察機をぶっこむためだったのだ!
「・・・・ ク ソ ッ!」
ドガッ! ガッ!
カウンターでプラグインして戦機の情報とリンクしていた彼女は、怒りに駆られ両手を叩きつけた。なおかつ膝も入れる。
彼女の飲み終えた空のグラスが宙に浮いて、そのまま転倒。中に入ってたペルチェ素子がカウンターにゴロゴロ転がる。
「お客さん、当店台バン禁止となっております」
バーテンがカウンターに転がったグラスを拾い上げ、声音も荒らげずに当然のことを告げる。
「う、うぅ。うっさいハゲ!!!(注1)」
バン! ガタッ ガツン ドガァッ
彼女が一人でヒートアップし、椅子を蹴って立ち上がりかけたところで、接続していたプラグに引っぱられて転倒、カウンターに後頭部をぶつけ、悶絶して床に倒れ込んだ音である。
「ぐわぁあああああああ! ズレた! 頭の中でなんかズレたー! 気持ち悪いー! おぇっ。プラグも曲がってるよぅ~~」
頭の中がグルグル回る。
「オェェッ!」
消化不良の油は、タールの臭いがした。
注1
『ハゲ:機体表面の塗装・コーティングなどが剥げている様子。
転じて身だしなみの悪い、コーティングの乗りの悪い安物、塗装代も稼げない穀潰し、などの意味。悪口。』
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