第14話『ニュークリアー』

強襲型偵察機:RBYF-19E 大輪


 冷却触媒を放り込む時間もない。限界一杯の電脳をオーバークロック。

 たぶん此処が最後になる。


 ・・・武装が足りない。


 電磁障壁で押し入っても・・・防ぎようがないレーザーがメイン装備の機体が3機見える。持ってて当然のサブ武装も合わせれば、ぶっ壊されるのを防ぎようはない。


 ビームコーティングも無い。そもそも突っ込んだ所で、ハッチ内の隔壁を突破出来るかも分からない。


「が、偵察のチャンスは到来、行くしかない」


 思考高速化による加熱警告を無視。電脳にアイスノン(冷却材)の投入が始まるより早く、特攻を選択。

 と言うか。他の道は手詰まりなので特攻するぐらいしかない。


 幸いこちらの観測系はなんとか稼働させたところだ。出撃ハッチとは言え基地内部、全損覚悟で突入すれば、結構良いデータが取れるのではないだろうか?


 当然だが速度は発進前の敵を圧倒している。ならば電磁障壁で押し入って、索敵機の本懐を遂げよう。


「それ以外に選択肢もない」


 脚部側を打撃部位に設定して正面へ回しまさしく「ミサイルキック」の体勢へ以降。アンテナ・センサー類は逆に頭方向へ、気休め程度に移動する。


「脊髄反射(思考カットの反射攻撃)に、基地内制限が掛かってることを祈る! ・・・ハヴォックヤー!」


 狭いハッチに2列に並ぶ、出撃間際の敵機体。その数、合計6機。

 その敵機の頭とハッチの隙間、前腕一本分ほどの空隙を狙う。


「電磁障壁で頭を押し倒して・・・そのまま蹴り抜けて潜り込む。内部障壁があったら・・・激突で破れるかなあ」


 もし内部の隔壁が破れれば、内部構造への索敵精度はそりゃあ上がる。


 ハッチ内部を検証。

 急造拠点によく使われるハニカム鋼材。

 壁材もカーボンマットの複合材。

 十把一絡げの格納庫。

 隔壁も安いやつなら・・・最大戦速でぶつかれば抜ける可能性がある。


「エンゲーーーーージ!!! ドッスコオォオオオイ!!」

 

 音速超過の一撃。

 加速された思考のままで、口を開きかけている敵ハッチに突撃!!


(手前のレーザーと実弾を装備した中装人型2脚の2機に、電磁障壁ごとぶち当たって弾き飛ばす!)


 思考が加速し過ぎてコマ落ち気味の視覚の中。

こちらに気付いた手前の敵機2機が、バネに弾かれたような急激なブーストで斜めにブッ飛び、多大なモーメントでもって急速回転してこちらとの激突を避けた!



『こちらの機体の突入ルートから身を避ける』

 それは見事な脊髄反射(思考カット反応)であった・・・のだが、残念ながらここは狭いハッチの中である。


 野戦に出るのに市街・閉所戦の反射反応をセッティングをしている馬鹿はいないが、しかしまさか出撃直前のハッチの中で野戦反応を引き起こすことになろうとは、夢にも考えてもなかったのだろう。


 敵機の光学観測系がこちらの機体の脅威度を高く評価---最大戦速の機体が激突コースだから当然だが---して『スラスター全開キックでの機動回避』という野戦反応を引き起こしてしまったのだ。


 だがそのまま「超高速で斜め方向にぶっ飛んで回転しながら壁面にぶち当たる」直前、なんとか電脳まで情報が通ったようで、右の機体が発生したトルクを打ち消す方向へ腕を広げ、回転力を吸収しようとするいじましい努力を開始した。


 ・・・しかし反射行動に電脳の指示が間に合わない、その結果。

 機体の回転を止める間もなく右腕は壁面にぶち当たってもげて、左腕は背後の機体の頭を叩き潰した。


「・・・哀れな。左 の 奴 は ど う なった」


 左の機体の様子と、その背後の4脚にフォーカス。

 更にその後ろの機体が放つ、相打ち覚悟の頭部小口径弾の発射光『視界には収まってはいる』のだが。


 今も電脳処理を喰いまくっている索敵情報と限界に近い熱容量のオーバーフローで、電脳の処理が追いつかず理解ができなくなってきている。


「・・・左の奴は頭と腕がもげたか な」


 感熱。


 表面皮膚感覚に激烈な熱源反応!

 複数の熱源からレーザーの直射を感知。


 ドゴッッ ガァン ギャァン  ジュボァー


 高速思考の外では一瞬のこと。


 破壊的な回転の渦の中でもつれる敵機とその後続を電磁障壁で押し潰し、やはり下りていた内部隔壁に激突寸前で電磁障壁をOFF。


 激突破砕を狙うには、電磁障壁の持つ『衝撃を散らす能力』が邪魔になるからだ。


「索敵系の邪魔にもなってる し な」


 こんな事を演算した経験はない。が、角度はピタリ。

 超音速で迫った強襲偵察機による、華麗なミサイルキックが内部隔壁に決まった!


 隔壁に質量×速度の破壊力が突き刺さる!


 ドッ      ツカッゴオオオオオオオオオン


 大質量弾の直撃も考えられる外壁部隔壁はともかく、内部隔壁は普通大質量弾の直撃にまで耐えるようにできては居ない。


 内部隔壁を叩き壊した機体はそのまま通用路の壁に激突、破片を盛大に撒き散らし動きを止める。


「抜っけったっーーーーーーーーー!!! 索敵及び通信全開! 索敵通信系にシステムを全振り分け。破損システムバイパス!! 何かシステムに余剰が出てるぞ・・・っておわーーー!」


-索敵系64%ダウン。通信機能70%低下-


 チェック=即スルーしていたが、激突で破損した通信・索敵系制御が多すぎてシステム容量が浮いていた。


 お陰で、滞っていた機体制御と近接知覚データまでが流れ込んでくる


-機体損傷率40% 融合炉緊急停止 外郭・伝達系・保持電源に異常-


 機体のダメージを把握。


「あー、もう駄目か」


 まあ、生きて帰るなんてのは甘い考えだった。


 そもそも敵の脊髄反射(思考カット反応)は回避だけではなかった。


 間抜けな2機と背後の4機をすり抜ける一瞬の交差でも、『反射回避』と同時に放たれていた『反射攻撃』を喰らい込んでいる。


 取り回しの関係で、小・中口径レーザー---たぶん胸・肩部固定武装---小口径バルカン---胸・頭部固定武装---など、食らったのは小口径のものだけだったが、口径が小さかろうが、今の壊滅状態の装甲では全く防御しきれていない。


「これは無理だなっと・・・電力リミッター完全解除」


 もはや即死しないだけですぐに死ぬ、いわゆる『致命傷は浅い』状態である。


 残り少ない寿命だが、稼働する索敵通信系全てを、過剰電力でぶっ壊れるまで使って、電波妨害もない内部隔壁の内側から敵施設のデータを収集する!


 感じたものを感じたままに。案外柔らかい地盤。突貫で掘削されたらしい、教本通りの簡素な地下構造。重要な設備。それから・・・。


 内部隔壁が通路の左右で閉まり始める。

 振り向いて武器を放つ敵。

 チャフを巻く敵。

 いまさら電波妨害を始める敵。

 

 全てがこの突撃してきた一機の強襲偵察機を排除しようと試みている。

 

「だっが・・・遅い!」


 今の状態で取れ得るデータは全部取った。

 外装やフレームにどれだけ支障が出ていようが、腐っても強襲偵察機である。


 データ収集能力と圧縮速度で。

 通信速度と通信強度で。


「前衛機に遅れを取る理由は・・・ないっ!!」


 特攻時から全開だったレーザー・赤外線・電波・サーモ・X線・音波に磁気センサーが過剰出力で弾け飛んでいく中で、毟り取れるだけ毟り取ったデータを超高速で暗号化・圧縮する。


 そして前衛機共の発し始めた貧弱な妨害波を、後先考えない強襲偵察機の大出力指向性電波が撃ち抜いた!


 自機が完全に破壊されるまであと数瞬。


「機器の破損で雑なデータなのが痛いが、楊貴妃の姐さんなら有効に活用してくれるだろう・・・」


 では最後の仕事だ。


「反物質電池、内部電磁拘束、第1から第8全て開放」


 融合炉まで停止寸前で、敵機の真っ只中に索敵機が一匹。

 となれば他に打つ手はない。

 反物質電池の電磁拘束を『正しい手順』で解いてゆく。


「外殻パージ」


 核融合熱をどれだけバラ撒けるか。

 残り少ない超電導コンデンサー内の予備電力を絞リ出す。


「最終シークエンス作動。反物質電池T-02・03反物質開放・・・どれぐらいの威力なんだこれ」


 反物質を包む厳重な電磁拘束は解かれ、最適な順序で反物質が正物質と反応。

 対消滅による純粋な核融合が起きる。


 中心物質は光と熱と放射線に置き換えられ、そこに発生したエネルギーにより周囲全ての物質が即座に『沸騰』する。


 原子核が電子を捕らえていられないほどの高エネルギー状態に『沸騰』した物質--高エネルギープラズマ---は、熱量を更に周囲へ伝達すべく際限なく膨れ上がる。


 こちらへ振り向く途中の敵機も、後続を警戒し外へ展開した敵機も、圧倒的熱量に赤熱したプラズマの膨張圧に押し潰され、悉くが赤光に飲みこまれる。

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