第13話『デジタルフロント』
戦術機:TYV-10210 楊貴妃
E-18 b28付近の戦術モニターは真っ赤。
「反応良好。分かってたけど当たりねこれ。モニターが敵性反応ばっかりじゃない・・・」
通信部隊に張って貰った通信ラインが良い感じね。
第1陣の砲兵部隊に対する敵の反応が良い。と言うか、反応が良すぎるんだけど・・・。
「あーっ・・・。この速さで対応されると、大輪が取り付く付く前に、3陣の砲火に使い回す分が減っちゃうんだけど・・・。『ArtYF-5117 ライトニングハンマー、03:1715 RBYF-19E 大輪の予定突入口を、HARD(3)からINF(5)に設定』」
第2陣の火線はもう疾っている。
大容量の冷却機構に繋がれた戦術機の電脳がいくら常時加速された思考系を維持できていても---拡張思考用の外付電脳も増設されている---実際の用兵速度と通信環境が間に合わない。
大輪の投入口を狭めて必要な砲兵の数を減らす、ギリギリの運用変更。
だが、なんとか算段は付けた。
「だけど敵の反応が良すぎるわ。やっぱり先に陣を敷いてる方は得ね」
アラート! 砲兵隊の幾つかがさっそく敵に補足されている。
第1陣砲撃部隊の一部遁走に入る。
「ステルス弾頭、高空曲射弾道、ランダム軌道・・・・・・ここまで進化しても、砲撃元が隠しきれるわけじゃないのよねえ。・・・どれだけセンサー撒いてるのよ・・・ふむん」
第2陣砲撃開始・・・だがこれは敵の食いつきが悪い。第1陣攻撃と同じく、撹乱とお掃除砲撃---配置センサーと地雷等除去---程度がメインと見切ったのだ。
「本命までは戦機を温存してやる」と、こう言っているのだろう。
「確かに本命の攻撃じゃないけどねえ。反撃の手を伏せたままでどう出るのよ、っと!」
防衛機構が本格的に動き出すことを見越したEMP弾の連続爆発で起こった激しい空電と、それを舐めとるように電離し戦場に火花を撒き散らす各種妨害膜が煌めいているが、敵が本命だと思っているだろう『戦機の投入』は未だに無い。
砲撃第2陣の密度は1陣より3割増えているが、確かに中身は1陣と同じに見えるだろう。
「もうこっちの本命は紛れ込んでるんだけどねえ・・・」
その戦闘の間にも積み重なってゆくデータの山並みは、E-18 b28に関するデータを中心として山脈を形成し、収束していく。
他のデータの山からも続々と、E-18 b28へ情報の橋が架かってゆく。
「まだ足りない」
断片化が過ぎる情報も加える。
精度は落ちるが、幅は広がるはず。
『ArtYF-5000 ポイントに到達。諸元確認、』
『、陣 準備 了』
『えこー ごる ごるふ』
『素敵な夜のフライトにご招待します。お相手は』
『ちく わだ いみょ うじん』
「何だ今の・・・」
情報が増える。
地上の連携は、初期に比べて随分改善されているがまだ不安定だ。
部隊の繋がりが増えれば、情報の重要度と精度が増すのだが、強襲作戦ではそんな贅沢は言っていられない
少なくて雑な情報を紡いでゆく。
過去と現在。場所の遠近。重要さの高低。信頼度の有る無し。
それらを繋いだ情報は山を形成し、その山と山とを関連付ける情報のラインが増え、撚り集まって巨大な山脈の裾野を形成する。
大山が遠方からよく見えるのと同じく、情報は高く積み上げられ、その察知は容易になる。
「ふぬ・・・う?」
暫し黙考。
「待機中の突入部隊の被害が・・・被害許容の50%にも達してない?」
被害が少なすぎる。
突入させるため敵陣間近に伏せた部隊である。交戦率はもっと高くてしかるべきなのに。
「これは・・・察知されきっててこっそりと逆包囲でも形成中? あー・・・情報が足りない!」
戦域を確認。
第3陣、突入部隊の半数と、近場の砲撃部隊の残りで9時の方向の退路を強化。
「逃走経路は9時」
可能性の高い包囲網からの退路は堅持したが・・・どうなるか。
まあどうせ攻めるしか無い。
しかも強襲偵察が成功するならリターンの方がデカイ。
「さて、現世はどうなっているのかね?」
内部思考もまとまったので、動きの鈍い現実世界の方へ意識を向ける。
『片付けられない系戦術機』と友人から言われたそんな楊貴妃の脳内で、山の如く積み上がった電脳内モニター。
その中の一つでは、気圏内の偵察ポッドが、戦塵とEMPノイズで全く様子が掴めないながらも、問題の強襲偵察機:RBYF-19E大輪が居るはずの地点を追っていたのだが・・・突如としてその地点から閃光と爆炎が巻き起こる!!
「あーーーっ!?」
1カメ~3カメまで、時間を遡って確認もしたが、あれはまず間違いなく大輪が爆発してる。
「いや、ちょっと待って。他に強襲偵察機は手が空いてないのよ!? な、何か・・・情報は取れたのーっ!?!?」
脳内TVモニターをガチャガチャ揺するが、そんなことをして何が変わるわけでもない。
まあ通信と索敵強度がウリの強襲偵察機である、あそこまで突っ込んでれば、多少は何がしかの情報を持ち帰っていると思いたい。
詳細な通信が上がるまで、ヘタをすると数秒。
加速された思考の中では、その時間は悠久にも感じられる。
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