第11話『バレットサーカス』

 曲射弾の山成軌道に交差して、ミサイルが迎撃を避けた低空軌道で陣地に殺

到する。

 足の早いミサイルが曲射弾に先行して着弾。


 陣地周囲に仕掛けられた索敵系が、存在を隠す意義を失ったと悟り、大気を焼くほどの強度でレーダーを発振。

それにより、陣地防衛網が曲射弾・噴進弾をその目に捉える。


 ミサイル群が拠点に到達・・・する直前。

陣地周囲の地面に埋め込まれたカウンターミサイル群が次々と反応。

目標をロックするや、超音速で有効範囲に捉え、子弾を空中に散布。子弾は更に破片をまき散らし連鎖爆発! 


 超高速・ランダム軌道で防衛網を抜けようとする攻撃ミサイル群を、空間ごと制圧しようと連続炸裂する。


 大気を割り裂く光と爆発。


ドッッ! パァッ! パァン! パァン!


 しかし引き裂かれた大気が悲鳴を上げ、先陣を切ったミサイル群が迎撃されると同時に、周辺空域が索敵系の目から消失した。迎撃された弾頭の半数以上がレーザー・ビーム・レーダー等撹乱弾であり、ありとあらゆる妨害物質が大量に撒き散らされたのだ。


 そのミサイルの第1陣で視界を狭められたレーダー網に向けて、爆炎を突き抜けた曲射弾頭---高高度から大量の榴弾・榴散弾が---が雨霰となって突き刺さる。

 

 曲射弾は、単純に撃ちだされた時の初速だけで推進するため、噴進弾(ミサイル・ロケット)ほどの超超音速域は基本的に保てない。


 だが、ミサイルとは比べ物にならない単純な作りであるがため、量産が容易く、大量に使用される面制圧火力としては有用だ。


 推進にそれほどの熱を発せず、ミサイルより小さい小型弾頭の迎撃は難しく、更に大半は迎撃され難いステルス弾である。


 これら曲射弾頭は、射出時にプログラムされた簡単な形状変化により、様々な軌道を描いて迎撃を躱し、要所と定めた場所へ着弾を目指して飛翔する。



『MirageDX-st-008曲射弾』


 種別はステルス砲弾。


 その材質と形状で、レーダーに反応し辛く迎撃し難い。Mirageシリーズはステルス砲弾のベストセラーである。

最低限のステルス性能だがとにかく安く、前線での大量投入に非常によい逸品である。

我が部隊の曲射ステルス砲弾は基本Mirageシリーズ一本。一括大量購入で、更にお得になるからである。


 ステルスは砲弾以外のミサイルにも存在し、『ZZ-日蝕参拾』シリーズや『LMP-02SOⅢ』系列の機体用中型地対地ステルスミサイルなどがある。


 だが迎撃機構の発達した昨今、ミサイルは熱は出す、音は出す、大きさもあるで、それにステルス性を持たせようとするとどうしても高価にならざるを得ず、こちらもやはり「ある程度のステルス性を持たせた」程度のミサイルが、戦場での主流となっている。



 爆轟。


 数条の閃光とともにステルス弾の内、拠点にもっとも近づくようセットされたものと後続のミサイル群の7割が蒸発。


 近接レーザー防御。線・磁・波・光学観測を組み合わせた、光速の迎撃機構。

だが、常なら鉄壁であるそれも、戦塵と散弾の乱流に徐々に飲み込まれ、次第に精度を保つことが難しくなってゆく。




強襲型偵察機:RBYF-19E 大輪


 第1波のミサイルが、着弾する寸前に進入開始である。


 作戦手順に示された進路を、確実にトレースする。これにより、砲撃の隙間を縫い、(味方の攻撃からは)安全に侵入できる・・・筈である。


「状況開始といこうかー」


 他の機種よりも長いメインスラスター4本を全開にして、丘の上に、木々も疎らな夜の敵隠蔽陣地への突入である。


 夜間だが、色の補正をする必要もないので、モニターは黒と白である。しかし、丁寧に偽装されたらしい陣地は、日中に見れば緑の絨毯に覆われた、のどかな丘に見えるだろう。今は地面を突き破って生えた砲塔や……


「うぉおおお!?」


 疾走一歩目。


 友軍のミサイルが、コンマ一秒目の進入地点、右真横4mに着弾する。


 通常弾頭らしく、通常の炸薬が、通常に爆発。綺麗(だと思う)な、緑の絨毯が禿げる。爆風で、俺の装甲も禿げる。


「嫌な予感がす・・・」


 言い終わらぬうちに二発目がくる。今度は曲射弾が真正面4mに着弾。


 最初の衝撃から立ち直った矢先に追撃だが、一応ルート通りに、左に抜ける軌道に機体を乗せていたため、これも直撃ではない。直撃ではないが・・・。


「くそやろっっっぉおおお!」


 手足を伸ばした飛行姿勢から、手足が衝撃で吹っ飛ばないように、身体ごと丸め、整流を無視、対爆姿勢をとって、ブースター推力だけで機体を無理矢理飛ばす。


 核地雷の直撃にもギリギリ耐えていた装甲が一枚吹っ飛ばされる。


 さらば、戦友(とも)よ。


「ここまでやるってことは・・・」


 ブシューッ キュゥイーーーーーーン


 電子繊維網に強制冷却触媒(アイスノン)をぶち込み、物理的に頭を冷やす。


 そして得られた熱容量で、思考速度をオーバークロックして、処理速度の限界を一時的に超える。超思考状態である。

 電子繊維網の発熱が限界を超えるまでは、思考が高速化される。忙しい時や、ふと物思いに耽りたい時などにお勧めである。



「って。これだと辿り着く前に、身体が削れて死んじゃうよね? 楊貴妃さん、もしかして私の機体の状況わかってなくて、作戦立てちゃった!? ・・・今の俺はスケルトンだぞ!? もはや艤装なしの素体に近いのよ!? ・・・・・・あ、わかった! これ、行きに電磁障壁使って、帰りにエネルギー切れて死ぬ寸法だわ!」


 俺を弾道に紛れ込ませ、脅威度を無理やり下げて、観測網を誤魔化すか。

 まあ味方の爆撃に巻き込まれて壊れそうなボロ機体よりも、確実に迫る砲撃の迎撃を防衛機構が優先するのは当然である。


 しかし、そのせいで何をする前に機体が崩壊するぞ。


 電磁障壁を展開するしかないが、運良く丘に潜り込めたとして・・・索敵して、ポッドを放り出せたとして・・・その後、帰還できる可能性は低い。


 そもそも電磁障壁は、電力消費が半端ではない。


 砲撃とともに潜り込めたとしても、電力を回復する前に、そして援軍が来る前に、敵陣の攻撃で破壊されるだろう。


 装甲がまともなら、電磁障壁の強度を多少は落とし、復路に使う電力も温存できたかもしれないが。


「よし、死ぬか」


 楊貴妃の姐さんは、俺の機体がどんな状況か把握できずとも・・・動けるのなら・・・どんなヤバイ橋を渡らせても、それなりの成果を上げられる。と判断したのだろう。


「そう思いたい」


 そして情報収集という必要な成果以上のこと・・・例えば俺が生還する確率とか・・・は、凄く雑に考慮されているのだろう。


 狙いが戦術単位での勝利だけって言ってたけど・・・。前のめり過ぎます姐さん・・・。


ジュォオー!


 電脳網に突っ込んだ分の冷却触媒がほぼ蒸発。熱限界に引っかかり、オーバークロックが停止する。

 結論は出た。後先考えてる場合ではない。


「電磁障壁展開」


 フル炸薬弾頭の直撃弾は予定にないと思うが・・・姐さんなら、炸薬を軽くした直撃弾ぐらい当てて『敵を騙すために死ね』くらい言いそうなので、バリヤー出力は全開。


「索敵ポッド連続射出。レーダーその他観測機全力運転準備。丘到達と同時にデータ収集及び全力通信。その後、退却に移る」


 一部が溶けて引っ込められなくなった電磁障壁発生装置は、それでも各所正常に作動。


 丘の麓まで辿り着けば、2次ミサイル群が中腹まで着弾及び迎撃されている。


 電磁障壁で、近場の通常弾頭の破片を弾き、指示通りのジグザグのルートの第一歩目。


 左へ折れて、右(爆発)、左(爆発)、直撃(爆発)、右(爆発)、右(爆発)、直撃(爆発)。


「通常弾頭まで有効範囲じゃねえか! 妨害弾とか直撃してっぞーー」



『【有効範囲】

爆発物などの攻撃の際、爆風や破片で、有効な被害が及ぼされると予測される範囲である。ヘタをすれば直撃と変わらない。』

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