第3話『ドローゴー』

 機動戦開始。


 機動戦に至り、余らせておいた対地兵装の全弾発射から推進剤フル噴射で各自戦区に突入する。


 通信不良・視界不良・敵弾多数・目標複数・破損・全損・なんでも来いの状況で、残存機全てが作戦目標に向かってまっしぐらに突っ込んでいくのである。


・・・とっても楽しい。


 因みに。

規定の方策に従って日頃からとり行われる軍事訓練により、あらゆる状況を天網恢恢祖にして漏らさず想定に収めており、現在のようなカオスな状況でも100%完全な軍事行動が展開でき得る、と要諦では定まっている。


『・・・・・ボケー・・・ダー・・ウワー!・・』


 近くで拾った通信からは、激突した2機の同僚の悲鳴が聞こえた気もするが、これも勿論織り込み済みである。

この程度では損耗率は変わらないから大丈夫なのである。


 このような悪辣な通信状況下では、超圧縮された短暗号で突入地点と機動ルートを知らせるのが方針だが、受信不良に送信不良・戦場に付きものの数々のわくわくハプニング・その他、により次々と『事故』るものが多発する。


 完全な『事故』は軍事行動の外として扱われ、評定の下げが少ない。


 軍事評定。

 これにより戦機の勲功ポイントが定まり、得られたポイントは機体養生から数多のサービスまでに換えられる、それらの積み重なったポイント総計に至っては機体の存在価値そのものである。


 難しい判断ミスから僚機に激突・味方撃ちを行った間抜けな機体共の評定まで。

指示を出した戦術機などにも責が及び、彼らの評定も下げてしまうことも多い。


 そのせいで。


 慌てて激突したり味方撃ちした奴らを全て『事故』扱いにして誤魔化す風習があったりもする。

『事故』だと評定の下げが少ない。


 つまり『事故』だと処理してしまえば、我ら機動降下強襲部隊の行動が評定上は完璧に統制のとれた素晴らしいものになるのだ。


・・・・・・。


 だがまあ上層部からの戦闘評定ノルマをクリアするために、この様な種々のマヌケが『事故』として処理され看過されるのは、実際問題になってはいる。


 問題になってはいるのだが・・・まあ上層の方達も、自分の部下にも蔓延しているこの誤魔化を咎め立てすれば、自分達の評定も下がる為言い出せないのが現状である。


 それに。どうせ全員がやっているので、結局は全体として評定平均が変わらない。

全員が10点プラスされてれば、平均点が上がって赤点の数字もそれだけ上がるだけなので、実は誰も損も特もしていないのであった。



 閑話休題。


【『事故』のベールに触れてしまい、その実態の広範さに恐れをなした戦闘情報技官が


「こんな腐った戦術機には俺が手本を見せてやる!」


---彼の中で何かが弾けてしまったらしい---と、戦闘部隊に転属を願い出てしまったとか、出なかったとか。


 その後彼は戦場に出る前に上層部から


『障害アリ、再生工場イキノ用ヲ認ム』


の烙印を押され黄色い機体の救急部隊にドナドナされて行ったという。】



 実際のところ、過酷な状況で味方に激突して爆発したり、味方を攻撃に巻き込んだりするのは、事故の範疇かどうか難しいラインだとは思う。

しかしまあ皆「長いものに巻かれるのも立派な戦術である」と割り切って、今日も元気に激突しているのであった。



「・・・ハヴォックヤー」


 ダミー用のハリボテの裏。軽作業用マニュピレーターでハの字を切ってハヴォック神への祈りを捧げる。


困難を避けるよう祈る時の常套句は、


『ハヴォック神の導きがあらんことを』(ハヴォックヤー)


となっている。


 そんなこんなで沈黙と祈りの時を経て、地上への降下も佳境を迎える。


 火線による露見を嫌い温存されていた荷電粒子砲などビーム兵器が、こちらの機動開始とともに砲火に混じり始め、砲火を一層厚くしたからである。

 夜空を彩る散乱膜とそれに反射されるレーザーの煌めきに、自ら光を放ちながら天に駆け上る火の玉までもがカクテルされて、ひしめく戦機とダミーが群れをなすカオス空間に、一層の彩りを添える。


「俺のCIWSさんの調子は下の中・・・」


 EMP等の電子妨害と、撒きに撒かれたレーザー散乱膜であらゆる通信も散乱され阻害され、大出力を誇る近接レーダーもヘタリ気味である。

ぶっちゃけ、実体弾を迎撃しきれる気がしない。


「予想通りで問題なし」


 混戦時のCIWS機能低下は、もはやいつも通りのことなので諦める。

音響・・・は、はや使い物にならんとして、光学とレーダーと何とか通った熱観測でビームを察知。


 超電導コンデンサからの莫大な借金を背負い、電磁障壁のスイッチをキック。


「カウント3.2.1.0」


 予定に合わせて0.005秒で数え終える。


『必殺技にはこういう演出が必要である』


とどこかで読んだ文献に書いてあった。


「電磁障壁展開! バリャー!」


 物質は電荷を帯びている。

電荷を帯びた物体は、逆の電荷に反発して弾かれる。


『なら莫大な電力をつぎ込んで、超強力な正負の電磁波を交互にぶっ放してバリアーにしよう!』


・・・これが電磁障壁である。


【超電導コンデンサー充電開始 電磁障壁発生器機関冷却 消磁器作動】


 数秒に渡る電磁障壁連続展開でビームと実体弾の弾幕を強行突破し、超超低空侵入。

余剰電力も盛大に使い、バカ出力でレーダーを全力発振、同時にセンサーポッドをバンバン発射する。


そんな強襲型偵察機体:RBYF-19E 大輪  これが俺である。

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