第27話 なぜそうなるんですか~!
「ちょっと痛むよー」
口元に白髭をたくわえた目元の優しい先生が、診察室で傷口を丁寧に洗浄してくれた。痛ってーと思うがすぐ後ろに居る藤宮さんが意識して我慢する。
ほどなく右手が包帯でぐるぐる巻きにされた。その場で思ったことは、これでは自転車に乗れないということだった。明日の通勤どうすっか。
……我ながら短絡的な発想が情けない。
「抗生剤出しておきますね、明日も消毒に来てください」
「はい、ありがとうございます」
目元の涼し気な看護士さんに促され廊下へ出ると、見知った顔が。
「刈谷崎さん!お疲れ様です、その、心配かけてすみません」
駆け寄り一礼してから、その後ろにいる人影に気が付いた。確かあの時客室で泣いていた未来ちゃんのスッタフじゃないだろうか。
「守野、お前は罪作りな奴だね。この子がどうしてもお前に会いたいって言うから、激務の間を縫って連れてきた」
へ? ナニヲイッテルンデスカ? と思う間もなく女の子が緊張した面持ちで前に出て来る。胸のプレートには佐久間と記載されていた。
「あ、あのごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!私があんなところにキャットタワーを設置しなければ事故は起こりませんでした、私の責任ですっ!そのお怪我もみんなみんな……」
「ちょ、ちょっと待って」
半泣きと言うかもうすでに泣いている姿を見ていられなくて、悪いと思ったけど遮った。
「未来ちゃんは日向ぼっこが好きな子なんだろ?だからあの位置にタワー置いたんだよな、俺もそうするよ。予測が甘いと言われればそれまでだけど、あれは故意じゃなくて事故だ」
泣き顔の佐久間さんがハッとしたように顔を上げる。
「俺だってそうしたさ、と言うか俺だけじゃなく、お客様が望むことを叶えたいと思ってるスタッフ全員がそうしたと思う。だからそんな自分を責めるなって」
お、かっこよく決めたか俺?と思った瞬間、また例の衝撃と共にドスのある声が背中に走る。
「まーたアホ面がかっこつけてんじゃないよ。終わったんなら行くよ」
「どこに?」
ショートヘアから覗いた小顔がつん、と顔を背けるとその後を刈谷崎さんが引き取った。
「たまにはみんな一緒にご飯と思ってね」
藤宮さんと一緒に夜ご飯、それはラッキー!
輝くボディのトヨタ86、その助手席に身を沈め華麗なるシフトさばきを視界に入れ、彼女に運転してもらう彼氏気分を味わう。
俺って妄想系だったのかよ。
市街地を走り抜け、住宅街を静かに86が静かに進んでいく。あれここって……。
「着いた~、あ、でもまだ降りないで、車止めるとこ聞いてみるね」
着いたって、なんか見覚えあるレベルって話じゃないぞ、これ家じゃん俺んちの前じゃん!
ほどなく窓がノックされ、顔を向けるとそこにも見知った顔が。
姉貴じゃん!なんだよこれ。
「宮ちゃんひさしぶりー!今ガレージ開けるよ、ちょっと待ってて」
「ありがとー!」
いやな予感満載な気持ちで庭先を見ると、バルコニーを開放し、いそいそとバーベキューの準備をしている母ちゃん、ではなくて母の背中が見えた。
なんだよこれは。車から降りたおれは絶望完結と言う名の膝を折る。
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