第6章 学園生活の始まり⑥

 天野橋先生に連れられ、僕ら三人は闘技場に来ていた。

 春休みゆえに他に誰もおらず、三月とはいえまだまだ肌寒い外の空気も相まって試験の時よりも随分閑散としている。

 場内の中央付近まで歩いていくと、天野橋先生は振り返って口を開いた。

「じゃあ今から【変身】の能力検査を行うわね。とりあえずみんな制服着てもらって……るね。よかったわ」

 先生の言う通り、僕たちは新調されたアーバン学園の制服に身を纏っている。

 僕の分は試験の時に炎条君の炎によって焼け落ちたけど、後日愛染さんに燃えた分の制服を新しく譲り受けたのである。

 この時他の九人分の制服も配給されて、すぐさまみんなのもとに届けられた。

 また愛染さんから、

「この前の試験の時の映像を親父に見せたら、燃やされたことに文句言ってて、そうそう燃えないような繊維で編み直したんだと。もちろんABANは練りこまれてるってよ」

 と聞いているので、あの時よりは信頼してもよさそうだ。

 貞操の危機に。

「では改めて始めるわ。じゃあまず明君、女の子になって頂戴。二人の手本にもなるし、言い方は悪いけど攻撃を受けるサンドバッグ役になってもらうから」

 まあ力量を量るのであろう検査に、相手役として誰がふさわしいかと言えば、まあ僕だろうなあとは思っていた。

「久しぶりに見れるのかあ……わくわく」

 岩島君の鼻の下が少し伸びていた。

 まだ変わってもないのにもう欲情してるのか……。

「うわきもっ。てめえは男で興奮すんのかよ……」

 あまり仲良くなれそうにはないなと思っていた炎条君と、初めて意見がかみ合った瞬間だった。

 まあこんなことで気を取られても仕方ないので、僕は自分のルーチンである胸に手を当てて目を閉じ集中する態勢に入る。

 ポーズをすると意外なもので、割とスッと気持ちが切り替わる気がする。

「”変身トランス”……”セクシャル”!」

 叫ぶと同時に腕を払うと、胸が膨らむのに始まり背が縮み、髪が伸びて独りでに結われ、四肢も華奢になっていった。

 ABANが練りこまれた制服も、サイズが小さくなり体に合ったものに変わり、ズボンの裾が短くなってスカートを形成する。

 ローファーにも含まれているので、色味はそのままにサイズだけがこちらも小さくなる。

 同時に、履いていたくるぶしソックスも膝下まで伸びて紺色のシンプルなハイソックスに変わった。

 試験の時は私物のパンツを履いていたけど、今回は愛染さん――いや、突刺ちゃんから貰ったものを履いているので当然こちらも変わっていた。

 しかもご丁寧に、黒いスパッツまで追加で加わっているという痴漢対策もされている。

 そんなこんなで、僕――私は無事に変身が完了した。

「うーん、相変わらず綺麗ねえ。今日はどうゆうスタイルなのかしら」

 はりまる先生にそう言われ、私は丁寧に答えた。

 ちなみにはりまるとは、下の名前の播磨を愛嬌を込めて呼んだ、女子の間で流通している先生のあだ名だ。

「今日はどこにでもいるような女子高生? がテーマですかね。意識してそれを変えたことがあまりないので……」

「ふーん。まあ変に露出度の高い格好に変わられるよりはマシだから平気よ。彼の顔見なさい。少し照れてるから、今のあなたでも」

 はりまる先生が指した”彼”とはそっぽ向いて頬を掻いている炎条君だ。

 その隣で蒸気機関車みたいな鼻息を立てている変態を無視して話しかける。

「直接見るのはこれが初めてだよね。あの時は巨人の中で気絶してたし」

「あ、あぁ……そうだったっけか……」

「どうかな? 私、可愛いと思う?」

「か、かかか可愛い……んじゃねえか……な。おお俺には……よく、分からん……」

ちょっと煽るとどんどん顔が赤くなっていくのは、見ていてもっといじめたくなってしまう。

こういうことを言う女の子が同性に一番嫌われやすいという噂も、自分でやってて改めて身にしみてわかる気がする。

でも逆に、言われてすぐにデレる男側も悪いのでは、とも思えてきてしまう。

どっちの気持ちも分かるだけに、私はこれ以上彼を誘惑することは言わなかった。

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