第6章 学園生活の始まり⑤
入学試験から数日が過ぎたある日。
僕はSNSで天野橋先生に呼ばれ、校内の保健室前で待ち合わせることになった。
その際、岩島君と炎条君も誘うように言われている。
この時点である程度察しがついた。
僕ら三人は現時点で、外部から受験で入ってきた十人のうち、すでに【変身】能力が覚醒しているメンバーである。
先生も、新一年生の能力に関するデータは早いうちに取っておきたいのだろう。
ひとまずこういう旨だと伝えるために、僕は男子寮にいる彼らの部屋を訪ねた。
アーバン学園では基本的に二人一組で入寮し、朝食と夕食、入浴と就寝目的で学校の敷地内に建てられている。
二人は試験の時に仲直りしたように見えたけど、結局は岩島君が逃げるような形で寮の部屋は隣同士ではあるけど別になった。
ちなみにそれぞれ同部屋で暮らしているのは、岩島君が六無斎君と、炎条君が螺旋塚君という組み合わせだ。
僕は最初に白樺さんに誘われた時にほぼ強制的に女子寮に入寮することが決まってしまったので、普段生活するときは泣く泣く女の子にならざるを得なくなってしまった。
もちろん男物の服や下着もあるけど、外出するときはわざわざ男子トイレで着替えないといけないから困り者だ。
僕が性別を変えられることは先輩たちはもちろんクラスメイトも全員知ってるけど、まだ入寮していない内部進学の新一年生たちは知らないので、彼らが来る三月中旬ごろまでは堂々と男の姿で女子寮を出入りできるから精神衛生上安心できる、と考えてる時点で常識がゆがんでしまっているとも思えなくもないが。
ともかく、僕は二人に集まることを伝えて男子寮を後にした。
先に保健室についてから数分後、二人は少し離れてはいたけど一緒に来ていた。
「ったく、朝っぱらから何の用なんだよ。まさか俺とこいつで喧嘩しろとでも言うんじゃないだろうなあ⁉」
「な、ななな何言うんだ突然!
「は? イワシてめえ調子乗んなよ。中学で俺に勝てたことあったかよ! つーか太り過ぎだてめえ。二度と触りたくもねえや。近寄んなどっか行け」
「勝ったことあるもん! 五教科の合計点10点勝ったもん! 赤点だったけど!」
…………醜い言い争いだ。
逆に朝っぱらからよくもこれだけ罵倒できる元気があるなあと感心してしまいそうだ。
炎条君が僕に突っかかってきたのに、岩島君が横入りしてきたというか、自分に言われたと錯覚してか反論したのをきっかけとしてこの様だ。
事情を知る狩根さんにこっそり後で聞いた話だけど、イワシというのは岩島君が通っていた中学で呼ばれていたあだ名らしい。
太ってて気が小さくて弱いから「鰯」だそうだ。
魚の鰯はそこまで太ってなかったと思うけどなあ、と僕は思う。
で、そんな時の岩島君が反論で、
「イワシじゃない! 僕はマダイだ! 腐っても鯛だからな!」
とドヤ顔で言って、炎条君と他のやんちゃ仲間にフルボッコにされるのが日常というかお決まりの展開だったらしい。
ただフルネームの前半か後半かの違いじゃないか!
狩根さんにも「それな」と言われるほどにどうでもいいことに対して、どうでもいいツッコミをしてしまったことを、この時の僕は知る由もない。
二人の口論を傍から聞いていて呆れていると、後ろからため息交じりに天野橋先生がやってきた。
「二人とも元気ねえ。ならこの後も存分に協力してもらうからね。【変身】のデータ、取りたいから」
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