第6章 学園生活の始まり④

残る三名の受験生も螺旋塚君に続き、次々に手を挙げて意見を述べていった。

まずは雛森さん。

「私も皆さんと同じように入学したい所存であります。驚きはしたものの受験する学校名など些細なことです。また、この学校にいれば私が生まれついて持っている予知能力の正体もじきに分かるのでは、と考えての決断です。どうぞよろしくお願いいたします」

さっき僕が聴かされた、ボディービルダーに助けられるという奇想天外な予言も、岩島君が【変身】能力を使って本当に助けに来るという形で当たってしまった。

目を見ただけで視えるようになるなんて、それこそABANの力の影響なのではと感じる。

それか使いこなせていないだけで何かしらの【変身】能力がすでに発動しているのではないかとさえ思えてくる。

まあ今深く考えたところで何も進展しないので、次の六無斎君の発言に耳を傾けた。

「俺も入ろう。聞いていたところとは違うらしいが、俺としてはむしろ好都合だ。最近勉学に勤しんでいたためか、剣筋が鈍り動きを見切る力も弱くなっていた。だがこれだけ広い、文字通り闘技場を備えている学校でなおかつ、俺が見てる限りでも屈強な猛者たちが年上の方々はもちろん、同い年のやつらにもいるときた。これだけ揃っていれば俺の修行には困ることがない。むしろいくら研鑽を積んでも勝てないやつがいるかもしれない……おっと失敬。長くなり過ぎたが、入学しよう。よろしく頼む」

口が悪くない分聞いていて印象は悪くないが、炎条君の発言よりも戦うことに対して積極的に感じられた。

どうやら面接で聞いていた時以上に、六無斎君はかなりの戦闘狂だ。

彼が観客席の先輩たちを見る目は、戦うことに飢えた野獣のような眼光を発していた。

さて、残る一人は百合ヶ丘さんだけだ。

僕はもちろん、生徒会の面々や先輩たちも、果ては他の受験生たちもみんな彼女の方へ向き直っている。

最後の一人なのだから入る入らないの決断は、それだけプレッシャーになる。

しばらく><ばってん目で「ううう……」と唸った後、とうとう意を決して半ばヤケクソ気味に叫んでいた。

「あーもうっ! あたしも入ります! 入りますからそんなに見つめないでください! うあああああ…………」

理由:同調圧力。

とても可哀想で、拒否権がなさそうなのがさらに彼女を哀れにさせる。

四字熟語で片付いてしまう余りにもあっけない入学宣言に、僕は大いに同情した。

「これで今年の合格者がすべて出揃いました!」

白樺さんが全員が挙手したのを見計らってマイクに声を響かせる。

「今年の合格者は前期試験一名! 後期試験九名! 計十名が新一年生として今年の四月入学する運びとなりました! 思うことがたくさんあるだろうことは重々察しますが、今はまずこの一言で、生徒会長からの祝いの言葉とさせていただきます!」

その後マイクを近くに置いて一度深呼吸をすると、深々と礼をしながらスピーカーよりも響く声で叫んだ。

「合格おめでとうございます‼ ……以上です。ありがとうございました!」

その後闘技場全体に拍手喝采が巻き起こり、指笛が鳴り響き、生徒会メンバー全員が受験生たちの前に飛び降りて一人ずつ握手を繰り返していった。

毛布にくるまっているうちに僕の能力も解けたようで、髪は短くなって体格もほどほどには整った元の身体に戻っていた。

そこへ岩島君と炎条君に毛布を掛けた後、しばらく僕とは別の場所で彼らの話を聞いていた、波止場町さんが戻ってきた。

「これから私たちのクラス、にぎやかになりそうですね」

にこやかに微笑みながら語りかけてきた彼女に僕は一言だけ、笑顔で言った。

「はい!」

その時吹いた風は、春一番を彷彿とさせるような温もりを僕らに与えて通り過ぎて行った。

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