第6章 学園生活の始まり③
「さてさて、受験生諸君。3人挙手してるけど、他に入りたいと考えてる人はいますかー? 存分に悩んで大丈夫よー。私達は強制してる訳じゃないからねー」
腕を挙げることを躊躇っている他の5人に、逆説的に早く手ぇ挙げて! と言っている白樺さん。
無理もない。
戦った二人と、その二人と近しい関係の狩根さんはともかく、ほかの人たちはまだこの学校のルールに染まっていないのだ。
入学試験で戦えだなんて無茶にもほどがある。
こんな試験やるくらいなら中卒で働く方がマシだ。
もし【変身】能力に目覚めていなかったら、僕はそう考えてたかもしれない。
これと同じとは言わないけど、こんなとこ入るくらいならいっそ、とは思ってる人がいるかもしれない。
少なくともあの2人は……。
「「はいっ!」」
僕の予想はすぐに裏切られた。
まさか挙手するだろうと思っていなかった受験生のうちの筆頭、柳瀬さんと螺旋塚君がそれぞれ逆の腕を掲げて叫んだのだ。
同時に響いた声の方へお互いに手を挙げたまま向き合い、視線が交わると同時に眉間にしわが寄り、挙げた腕をおろすと振りかぶって相手を指さし合い、また叫ぶ。
「なんでお前が⁉」
「なんであなたが⁉」
モーションだけが鏡のように正確なタイミングで合致する二人の反応に、会場から笑いがこぼれる。
「そこのお二人さん!
見かねた白樺さんが片足を乗り出して、上からダメ出しを言っている。
それを受けて二人して赤面した後に、螺旋塚君に首で促されたこともあって、柳瀬さんから口を開いた。
「私が入学しようと思ったのは、ぶっちゃけお金さえもらえればそれでよかったんです。しかし、そもそも進学する高校が違うということで、まわりの皆さんの意見には少なからず賛同していました。ですが、彼らの戦いを見て感化されました。これらの戦いにおける能力の発端だとか、歴史とどれくらい干渉しあってるかなど、私なりに俄然興味が湧きました。私が皆さんや彼らのように使えるようになるかは分かりませんが、できる限りの努力はしたいと思います。よろしくお願いします」
ところどころで周りを見渡したり手で表現したり、様々な仕草を交えながら訴えかけるように、模範解答とも思われる丁寧な理由を述べた。
横で腕を組んで聞いていた螺旋塚君は、眼鏡を中指で調整しつつ「ふんっ」と唸ると、力強く言い放った。
「彼女とは意見が多少被るが、僕も結局は金目当てさ。もちろん偽の試験だと気づいた時は自分の愚かさに絶望したよ。所詮は甘言だったとね。だが彼らの戦いを見て思ったよ。僕も男だ。学力や知識量だけじゃない、純粋な力比べをしてみたくなった。だが能力がないうちは、変身するのにかかる時間だとか、個人的に惹かれるところから着手して行こうと思う。以上だ」
螺旋塚君らしい論理的な答えだった。
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