第1話全ての始まりと終わり

【ビル上にて】栗花落 冬空


──「卒業」という言葉が俺の全ての始まりだった。

あれから13年、俺は今でもあの日の事を忘れない。

彼は俺達に正義も悪もない、「無」があるだけだと言ったが、俺はこの世界には「悪」しかないと思っている。

なんてことを1人悲しくビルの上で考え込む奴がいた。まぁ俺なんだけどさ。

「・・・こんなところでどうしたの?」

「ん、詠か。」

話し掛けてきたのは火鏡 詠-カガミ ウタウ-だった。彼女は普段1人でクマとお話しているようなガチで暗い性格をしている。(俺も人のことを言えないが。)そして13歳にしてこの組織「Justitia」の幹部でもある。言っちゃえば俺よりも実力が上ってこと。

で、名乗り遅れたが俺は栗花落 冬空-ツユリ トア-、幹部でもなければ工作員でもない、なんでこんなとこで働いてるのかも不明。完全にお先真っ暗人生を歩んでいる。あとはどうでもいい。

「トア・・・なんだかかわいそう。」

「可哀想?どうして?」

「だって、いつもかなしそうなかおしてる。だれかのこと、ずっとおもいつづけてる?」

「そんなことはないな、小さい頃に両親もいなくなったし、ましてや友達もいない。」

完全にぼっちという訳である。

「あのね、うたう、トアのことずっとしんぱいしてるんだよ?だからげんきだして?」

「・・・そうか、ありがとうな。」

詠はこくりと首を縦に振ると、静かにその場を去った。

「・・・はぁ。」

俺はため息をつきながらとある人のことを思い出していた。春空-ハルア-俺の妹のことだ。完全ぼっちの俺の側にいてくれた唯一信頼できる人間。俺と春空は幼い頃から孤児院で一緒に暮らしていた。だがある日、春空は突然姿を消した。彼は「カッパーのせいだ」と言っていた。

カッパーとは警察の特殊部隊といったところでカッパースーツというものを着用し戦う、言わば正義の味方である。・・・一般人から見ればな。

13年前、俺が小学校の卒業式に参加しているとき、カッパーを利用した犯罪に巻き込まれ同学年の奴らや先生達が何人も死んだ。それから俺はカッパーのことは悪の塊だと思っている。

「やぁ、さっそく任務だよ〜。」

「灯吹?珍しいなお前がここにいるなんて。で、任務はまたカッパーとヴィランの戦いの妨害か?」

「正解。流石カッパー殺しさん・・・ったく、ボスもほんと人使い荒いよね。」

「いや、今の俺には十分だ。家族も同学年の奴らも全て奴らに奪われた。その仇を討たないとな。」

カッパーを正義の仮面を被っただけの悪の塊だと思っているのは俺だけじゃない。話を持ち掛けてきた九 灯吹-イチノク ヒブキ-もそのうちの1人だ。彼も昔、付き合っていた彼女がカッパーとヴィランの戦いに巻き込まれ死んだらしい。そして当の本人もカッパーに殺害された。今はAIとしてその身を保っている。ちなみにAIになる前は工作員として優秀な成績を納めていたらしいが、AIになってからはずっと音楽室に引き篭もり、カラオケをしたり、ピアノを弾いたりと自由気ままなニート生活を送っている。要は仕事をしたら負けだと思っている。

「ちなみに今回も俺1人か?」

「んー、そうだよ?多分?・・・あー、いやあともう1人いた?希ガス?」

「それって誰だ?」

「いやぁ・・・なんていうかね・・・良く分からぬ。確か見習いちゃんとかだった?はず?」

おいAI、ちゃんと仕事しろよ。

「あ、思い出した。そうとうかわい子ちゃんだってよ!」

「そこかよ・・・ま、とにかく俺1人じゃないんだな。分かった。」

「うん、なんか上手く伝えられずすまぬ。」

そう言って彼はいつも通り音楽室に向かう。

そして俺も現場へ向かった。





【現場にて】栗花落 冬空


現場は街の中心にある孤児院。・・・というか俺が育った場所だ。

「・・・どういう風の吹き回しだよこれ・・・。」

「冬空さんここに思い入れあるんです?」

「ない。」

「キッパリ言いましたね・・・。」

俺の後ろで有栖 茶乃-アリス ティノ-が引き気味に答えた。彼女は先日この組織に入って来た新人らしい。というか先日入ったばかりなのに即戦場というのも如何なものか。

「俺でいいのか・・・?俺より優秀な奴は山ほどいるはずだぞ?」

「いや、なんというか・・・上の方にあの男は紳士だから大丈夫だって言われまして・・・。」

「言った奴絶対あのじいさんだろ・・・。」

「冬空さん、上の方々に人気ですもんね・・・。」

「嬉しくない・・・。」

帰ったら隠れて泣いてやる。本気で。

「ところで状況はどうだ?」

「はい、北方にカッパー2体、南方にヴィラン1体、現在はヴィラン優勢ですね。」

「たったの1体に手こずってんのかよ・・・。カッパーも堕ちたものだな・・・。」

「・・・どうします?」

「んー、とりあえず有栖、お前魔術使えるよな?それでドカーンとこちらに気を引かせるか。」

「え?あっ、は、はい!!大丈夫ですよ!!」

有栖は一息ついてから小声で詠唱を始める。

『・・・ファンタシー』

そう唱えると、辺りは騒がしい街から一転、穏やかな森へと姿を変えた。

「・・・なるほど、『幻想』か。まさかそっち系とは思わなかったな・・・。」

完全に計算外である。

「・・・すみません、ドカーンってならなくて・・・。」

「いや・・・大丈夫だ・・・。」

ただ、計算外だったのは俺だけではなかったようだ。流石にこれにはカッパーもヴィランも(゚д゚)という顔をしながら戸惑いをみせるしかなかった。

「もしかしてこれでも正解だったっぽいな。」

「それならよかったです・・・。あの詠唱途中で失敗したので・・・。」

そうなのか。

「ちなみに成功してたらどうなってた?」

「火山口に変化してマグマにぼちゃんですね。」

怖っ。

「・・・し、失敗してよかったな・・・。」

「そうですか?」

「ま、これであとは片付けるだけになったし。あとは俺がどうにかしよう。」

カッパー2体に視点を合わせ、右手をかざす。

『・・・グラビタシオン』

そう唱えると同時にカッパー2体の身体は強く地面に叩きつけられる。どうやら戦闘不能になったらしく、カッパーの武装が解除された。ヴィランは(゚д゚)って顔をしながら2度見をしているがそこはどうでもいい。カッパーに関してはあとでベースの奴らが回収に来るから問題なし。これで仕事終了って訳だ。

「あの・・・ヴィラン残っちゃいましたけど、どうします・・・?」

「あ。」

「え?」

「え?」

「え?」

・・・。もう、ゴールしてもいいよな?(゚д゚)ってなってるから正直もうどうでもいいと思ってたんだが。

「・・・帰るか。」

「え?あ、あのヴィランは・・・?」

「ヴィラン?あんなものはなかった、いいな?」

「アッハイ。」

「それに任務内容は戦闘の妨害だからな、一応達成はしている。」

「そ、そうですね!!そうですよ!!わーいやったねはつにんむせいこうだー。」

こうして、有栖の初任務はなんとも言えない形で幕を閉じた。(他人事)





【会議室にて】栗花落 冬空


他人事で終わると言ったな?あれは嘘だ。

あの後、俺は上層部から会議室に呼ばれることになった。悪く言えば呼び出しをくらったってことだ。

「や、栗花落、さっきはお疲れ様だな。」

会議室には詠とあともう1人の男がいた。名前は不明、俺どころかAIですら知らない。ちなみに俺は敬意を持ってじじい、もしくはじいさんと呼んでいる。幹部の中では1番の権力を持っているため、ボスより仕事している希ガス。というかボスに至っては会議にも来ない、ビルにすら来ない。じゃあ何をしているかって?ずっとゲーセンに行ってるとか家に引き篭もりとかいろいろと説は出てるが未だに真実は分からない。

「で、要件はなんだ?」

「例の物が届いてね、君に是非観てもらいたいんだよ。」

そう言って取り出したのは携帯サイズの物体だった。

「おいじいさん、冗談だよな。これって・・・。」

「あぁ、カッパーに変身が可能になる。もちろんこれは君のだよ。君はこの組織初のカッパーになるんだ。」

「俺がカッパーだと?ふざけてるのか?」

じいさんは愉快そうに笑いながら答える。

「ふざけてる?なにもふざけてはいないさ。カッパーがカッパーを潰す、これほど美しい戦い方はないと思うぞ?」

じいさんはその物体を俺に投げてきた。それを受け取りながめて見る。

「これ・・・カッパーベースの物だよな。どこで手に入れた?」

「優秀なスパイさんからの贈り物だ。大切に使うといい。」

そう言ってじいさんは会議室を出ていった。

「・・・トア、かっぱーになるの?」

少し悲しそうな目で詠が言う。

「なるわけないだろ。こんな悪の塊になんか・・・。」

「うたう、トアのかっぱーすがた、みてみたいかも。」

「はぁ?何言ってるんだよ。カッパーはヴィランより凶悪なんだぞ?なのになんで俺があんな奴らと御一緒しなきゃいけないんだよ。」

詠は一息ついてから、──まるで別人のように話す。

「この世の中に正義も悪もないのよ、冬空。私達にあるのは「無」だけ、そうボスも言ってたじゃない。これは「無」を作るのに必要なの。だからね冬空、これは貴方にしか出来ない誉れ高き任務なの!!」

そう言われ、俺は暫く何も言えなかった。

「・・・ごめんなさい、いいすぎた。」

「大丈夫だ。でもすまない、俺はこの誉れ高き任務を放棄する。俺以上に優秀な奴は何人もいるだろ?」

詠はそっか・・・と言うとクマを抱きしめながら言った。

「トアはみんなのにんきもの。だからこうやってたのまれる。・・・すごいね、うたう、そんなことできない。」

「でも詠もこの歳で幹部だろ?そっちのほうが凄いと思うぞ?」

返事はなかった。いつの間にか部屋から出ていったらしい。

「・・・何が誉れ高き任務だよ・・・。」

俺はその物体を机の上に置き、その場を去った。





【とある部屋にて】有栖 茶乃


「やほ〜、ちょっと入っていい?」

そう言って入って来たのは、現在はカッパーベースにいるはずの四十谷 兎萊-アイタニ ウライ-さんでした。彼女はスパイとしてカッパーベースに入っている優秀なスパイさんなのです。唯一の欠点は甘い物を食べないと仕事をしないところぐらいです。

「四十谷さん?どうしてこちらに?」

「んー、だってむこう暇なんだもん。あ、お菓子ある?甘い物食べたいなぁ〜♪」

私は彼女に作っておいたシブーストを渡しました。彼女はそれを美味しそうに食べます。

「うわっ!!何これ美味しい!!どこの国のお菓子!?」

「えっと・・・確かフランスです。」

「へ〜、今度フランス行ってみよっかな〜♪・・・冗談だけどね。」

彼女は大満足したらしく、笑顔でいろいろなことを話してくれました。ベースのこと、研究のこと、そしてカッパースーツのこと。

「で、これが変身グッツってわけ、ダサくない?」

「んー、ダサいというかなんというか・・・。こんなものでよく変身できますね・・・。いろんな意味で。」

その変身グッツというものは、大きさが約携帯くらいで、変な柄が刻まれている物でした。

「と、いうかさ〜。ボスがこれを必要としてるから1個余分に持ってきたけど、何に使うんだろね、あれ。」

「ボスがですか?何故でしょうね・・・。」

「ま、いいや。そこまで考えても何も分かんないだろうし。」

そう言って彼女はもう1度ベース行ってくる!と元気よく行ってしまいました。

・・・あの変身グッツを残して。

「え!?あの、四十谷さん!?これお忘れ物ですよ!?」

そう言っても彼女が戻ってくることはありませんでした。

「・・・えっと・・・これ、どうしましょう・・・。」

そうやって私は戸惑うことになるのでした。





【音楽室にて】九 灯吹

これで終わると思った?ざーんねん、まだおわんないんだよなぁ〜。あ、でもあと音楽室で大音量でカラオケ流しながら2人で話すシーンだけだからさ、もう少しガマンしてね?・・・と、言っても今歌ってるのは俺じゃないんだけどさ。

「うたうちゃん、満足した?」

「うん、うたうすんごいまんぞく。」

「そかそか、それはよかった。」

さっきまで詠ちゃんはほんとにストレスが溜ってるらしく、幼女が戦争に行くアニメのEDを大音量で歌っていた。かなり発散できたようではあるけど。

「でさ、そのカッパーなんとか?ちゃんと渡せた?」

「ううん、わたせなかった。」

「ん〜、そっか、ざーんねん。」

「ボス、すごくかなしんでた。トアのこと、すごくきにいってるのに。」

確かにボスは冬空のことばかり見ている。俺だって優秀だからといってAIになったのに。羨ましいどころか、何故か冬空に対して殺意が沸いてくる。

「ヒブキ、おこってる?」

「ん?怒ってないよ?ただね、冬空くんいいな〜♪って思ってるだけ。」

その分殺したい気分でもあるけど。

「ヒブキ、ひと、ころしちゃだめ、いいね?」

「アッハイ。・・・っはは、やっぱりうたうちゃんには全部お見通しかぁ〜。大丈夫、人を殺すなんて俺のすることじゃない。」

詠ちゃんは安心したような表情で近くのソファに座った。

「あ、そういえばさ。おっさんがなんか企画立ててるって聞いたんだけどあれってマジ?」

「まじ。うたう、そのきかくとめた。くそめんどすぎわろた。」

13歳少女からわろたいただきました。

「それにね、このなかでだれかしななきゃいけないって。」

「死ね。ってこと?それ。」

詠ちゃんはこくりと首を縦に振った。そのとき、1つの答えが頭に浮かんだ気がした。

「はぁ〜ん、なるほどね。」

「なにかわかったの?」

「うん、でもうたうちゃんには秘密。」

「・・・むぅ。いじわる。」

そう言って詠ちゃんはちょっとおさんぽにいってくると言って部屋を出た。

その後、俺は近くにある棚を軽く動かした。そこには奥へと続く階段がある。階段を降りると俺が生まれ直した場所、研究室になっている。そこにある1つの水槽の近くまで行き、「それ」にそっと話しかける。



「──もうすぐ会えるね。俺の友達。」












【あとがきにて】作者

オール・フォー・ワン~Justitia もうひとつの正義〜

を閲覧いただき、ありがとうございます。(´;ω;`)スタッフ一同感謝感激雨ふらしでございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

実はこの小説の下書き(アナログで)してるときに事故に遭いまして。全身打撲で済みましたが皆さん交通事故には気をつけましょう。そして厄年お前は許さん。p(^-^q)

さて、なんやかんやあって1話です。

506文字から一転、5000文字を超えましたね・・・(゚д゚)ちょっとびっくりしてます。多分今私はヴィランさんと同じような顔をしているんでしょう。

この組織なんですが、本編では第三勢力グループとして一応敵サイドになっています。本編とは違った雰囲気を楽しんでいただけると幸いです。_(」∠ 、ン、)_

それでは、また次回お会い出来ることを祈って。ご閲覧ありがとうございました!!⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝








【nextstory→本日は仕事お休みします(リアルで)】

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オール・フォー・ワン~Justitia もうひとつの正義~ @kaihotate

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