二時

僕と別れて結婚したはずの桜が、目の前に座っている。


「えーと、結婚したって聞いたけど。」

「だから、寸前で別れたの。」


…。


意味がわからない。


日勤を終えた僕が桜と待ち合わせしてここに来たのは午後七時。


「ほんとーーーに都合がいいと思ってる。」

「それでも、眠い目をこすってでも秀平といられる時間が大切だった。」

「なんて、やっぱ都合いいよね、あーやだ!」

「でもさ、好きだと思っちゃうのは仕方ないじゃん!」


現在午後九時。桜は二時間近く僕への思い(?)を語っている。

桜って、そんなに饒舌だったっけ?


付き合っていた頃は、不規則な生活で。確実に会えるのは僕の仕事終わりの二時から、君が出かける七時まで。

完全週休二日制の桜と不定休の僕が休みを合わせるのも至難の業だった。

(付き合っているようで、まともに付き合っていなかったんだなあ。)


「最近、シフトを変えたんだ。」

「桜みたいに朝から働いて、こうやって会う日も作れるし。」

「相変わらず、夜勤もあるし、不定休ではあるけど。」

僕も負けじと、饒舌になってみる。


あのさ、桜


「新しい僕たちでやり直してみませんか。」




午前二時、家に帰る。

ただいまー、と電気をつけると

「まぶしいよーー。」と桜。

はいはい、と豆電球にして、前より暗い午前二時。


風呂上がり、桜のいるベッドに向かう。

昔みたいにわざわざ起き上がって僕に付き合ってくれることはなくなったけれど。

「今日もお疲れ。」「ありがと。」

こんな日常もまた、幸せなんだと思える。


電気を消して、君の好きな音楽が鳴るまで、おやすみ。

僕たちの新しい午前二時が始まった。

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