希望

久しぶりに見かけた雪は、

「お疲れさま!明日は遅れないようにね(笑)」と上手に笑って同期と別れるところだった。


「遅れないように、か。」

転勤族の家庭で過ごした雪の独特の方言なら、どんな言葉になるんだろうか。


がしゃん。

ブラック派の雪が、わざわざ甘いコーヒーを選ぶ。そんなの声をかけるには十分な理由で。


「それ、気に入ってくれてるの。」

さっきとは違う笑顔で雪が笑う。

「泰ちゃん!元気やったと?」

僕にしか見せない顔、僕にしか見せない言葉。

(お互い好きだと勘違いしたこともあったっけ。)


それから少しだけ、話をした。今の生活のこと、大学の履修や、進路。

話してるうちに、やっぱり僕はいろんなことを話したくなってしまう。


「そういえば、」

「この前月が綺麗でさ。雪も見てるかなーって思った。」


たかが、月で、されど月で。綺麗な景色を雪も見てたらいいなって。


「泰ちゃんもみとるかなーって、私も思った!」



雪の言葉を、何度も何度も頭の中で反復する。

たった一言で、僕は簡単に救われてしまう。


あなたが笑ってくれるなら、僕の世界はこんなにも希望で溢れている。


(うーん、ちょっと違うな。)


もう笑いかけてくれなくても僕はきっと、世界を希望に変えていける。



帰り道、ピンクの夕焼けがとても綺麗で。

「(綺麗だなあ。)」一人で思いながら少し笑う。

ピンクを目に焼き付けた僕は、夕焼けに背を向けて歩き出した。

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思いを繋いでみたい 細萱千夏 @knsknttknh

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